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厚生労働省

「社内でハラスメント発生! 人事担当の方」【第4回】「CSR推進の一環として対策を実践」 ― リンテック株式会社

【第4回】
CSR推進の一環として対策を実践 ― リンテック株式会社

人事部 課長 尾藤明彦 氏
CSR推進室 調査役 渡部和也 氏

粘着素材メーカーとして国内外で事業を展開するリンテックの社是は「至誠と創造」です。「至誠」とは、どうすれば役に立ち喜ばれるかを考え、すべての仕事に真心を込めて取り組むことです。「創造」とは、現状に満足せず、より高い付加価値を求めて常に工夫に取り組むことです。リンテックではこの社是の実践こそがCSRの精神そのものと考え、かねてからCSR、特にコンプライアンスへの取組に力を入れています。2011年4月からスタートした3ヵ年の中期経営計画では「CSR経営を根幹に置いた企業活動の推進」が盛り込まれ、コンプライアンスの徹底を含めたCSRを事業戦略と一体で取り組むものとして位置づけています。「職場のパワーハラスメント」対策に関しては、人事部と社長直轄組織であるCSR推進室が緊密に連携し、『行動規範ガイドライン』や『りんりかわら版』の発行、ハラスメントも含むCSR勉強会の実施、ヘルプライン(内部通報制度)の創設など、きめ細やかな対策を実践しています。その内容について、人事部の尾藤課長とCSR推進室の渡部調査役にお話をうかがいました。

どうすれば伝わりやすいか?きちんと伝えられるか?

――具体的にはどのような取組を行っていますか?

人事部 課長 尾藤明彦 氏

人事部 課長
尾藤明彦 氏

まず、2003年1月に『リンテック行動規範』を制定しました。その中には「一人ひとりの人権と人格を尊重し、公正に処遇する」という記載があります。その後2008年6月にこの行動規範の理解と教育を目的として、とるべき行動をわかりやすくまとめた『行動規範ガイドライン』を発行しました。日本語のほか英語、韓国語、中国語(簡体字・繁体字)、マレーシア語、インドネシア語の計6言語を制作して全従業員に配付しています。この中では「セクシャル・ハラスメント、パワーハラスメントの禁止」を明確に記載しています。また、2006年3月に創設した『ヘルプライン』という内部通報制度については、相談先が社内の総務・法務部長直通と外部の顧問弁護士から選べるため、その利用方法についても解説しています。

――CSRを題材にした川柳コンテストがあると聞きました。

2006年6月から、コンプライアンスの重要性を社員にわかりやすく伝え、理解してもらうために社内ネットで月二回掲載している川柳をまとめた小冊子『リンテックりんりかわら版・守ってマスカ?』を年1回発行しています。CSR委員会(現CSR推進室)を支える6委員会の一つである企業倫理委員会で、堅苦しくなく「なるほどね!」という気づきや納得が得られるものにしたいと検討を重ねた結果、ハラスメントを含むCSRを題材にした社内川柳コンテストを行い、その受賞作などに解説を加えて掲載することになりました。「なくしたい、パワハラ セクハラ 二段腹」といった親しみやすい内容なので、社内外からも評判がいいようです。せっかくツールを制作しても右から左へ素通りするようなものでは意味がありません。しかし、くだけ過ぎてもよくない。そのバランスについては委員会内でもかなり話し合いを重ねました。

――研修はどのように行われているのでしょうか?

CSR推進室 調査役 渡部和也 氏

CSR推進室 調査役
渡部和也 氏

CSR推進室員が講師となり各拠点にて勉強会を開催しています。CSR全般に関する内容ですが、セクハラやパワハラについても取り上げており、これまで延54回実施、延2,210名が参加しました。また、情報セキュリティ、メンタルヘルス、セクハラ・パワハラの3テーマをセットにしたコンプライアンス研修を新任の管理職研修、係長研修で実施しています。すべてをCSR推進室で行うのは難しいため、事前にパワーポイントで作成した資料を送付し、事業所や部署単位で研修を実施できる仕組みを2012年7月からスタートさせました。これは、5~10人規模の小集団で行う15分程度の研修で、事例から作成した質問に対して考え、答えてもらうQ&A方式で進めます。英語、中国語、台湾語でも展開し、講師用に台本を併記したバージョンも用意しています。現状は本社スタッフが出向いての研修とテレビ会議が主流ですが、交代勤務のある24時間体制の事業所などではテレビ会議を何回も開いても全員が参加できないことがあります。社員一人ひとりにしっかり理解してもらうための新しい試みですが、海外事業所からは積極的なフィードバックもあり、手応えを感じています。

部署間の連携で社内の実態を把握

――ハラスメントへの取組を始めるきっかけは?

何か特別な出来事があったわけではありません。セクハラが世の中に出てきてハラスメントという言葉が浸透し始めたころ、当社でも「改めて取組を強化していく必要があるのでは?」という意見が出始めました。セクハラも含めハラスメントの周知を図るためにCSR推進室が各事業所で研修を行った際のアンケートでは「ハラスメントのような状況を見聞きした」という項目に○が付いていることがあり、潜在的なものがあるのではと考えました。一方、ヘルプラインに寄せられる件数は1年に1件あるかないかです。同じ情報を発信しても人事部名とCSR推進室名の発信では社員の受け取り方やアンケート結果などが異なる可能性があるとわかり、連携するようになりました。

――どのような形で連携しているのでしょう?

直近では、各事業所でコンプライアンスの現状に関するアンケートを行いました。これは取引先企業からの「人権・労働に関する調査」がきっかけです。自社のコンプライアンス啓蒙活動が浸透して確実に違法行為や不当労働が行われていないと証明する必要がありました。法律に準拠した規定を作り、運用しているという説明だけでは証明できないため実態調査を行いたいとCSR推進室から話があったとき、啓蒙を促している人事部からこのアンケートを出したら社員との信頼関係が崩れると答えました。人事部の指示通り実践している現場に「本当に守っていますか?」というアンケートがきたら違和感があります。そのため、アンケート実施の背景も説明してCSR推進室から送ることにし、人事部もその対象に含むことにしました。社会からの要求に変化が起きている状況に対応するためのアンケートや実態調査を行う場合には、受け止める側に少しでも抵抗感がないように、そしてスムーズに正確なデータを取るためにも情報共有と連携が必要だと実感しました。また、このような取り組みから社内啓発も進むものと考えています。

――事業展開がグローバルになると、問い合わせは多くなりますか?

特に欧米企業からの問い合わせが多いですね。例えば日本では子どもを雇わないのは当たり前ですがグローバル視点では当たり前ではないので必ず問い合わせがきますし、最近では日本企業からも同様の問い合わせが増えています。当社の事業領域も半導体関連や液晶関連の取引が広がっていることから、日本の常識や口頭で「しっかりやっています」という対応だけでは通用しないのが現実です。外的要因ではありましたが、実態調査を行ういいきっかけになりました。国内外の事業所の役員と管理職414人を対象にハラスメントや誠実な活動などについてアンケートを行った結果、回答率は約68%、予想よりはるかに本音が書かれていて驚きました。管理職の回答からは、自分がパワハラを受ける側でもあり、同時に行っている側かもしれない立場だという意識が見て取れました。今後この声をどう反映していくかが私たちの課題ですが、定期的に年一回実施し双方向のコミュニケーションを図っていきたいと考えています。

コミュニケーションがデータと実態のギャップを埋める

――今後の課題について、どのようにお考えですか?

人事部 課長 尾藤明彦 氏 SR推進室 調査役 渡部和也 氏

セクハラの防止規定は明文化してイントラネットに掲載していますが、パワハラに関してはまだ防止規定を定めていません。先日厚労省が発表したパワハラの現状を示す数字や社内で行った実態調査がなければ潜在的リスクについて意識することができなかったかもしれません。セクハラも含めた「ハラスメント」として防止規定を作成するなど、まずは規定の整備を行う予定です。セクハラに関しては裁判事例も多く、個人差はあれどある程度守るべきラインの共通認識は持てていると感じています。一方、パワハラはどこまでが許され、どこからがNGなのかという判断は個人的な感覚と言われていますが、本人の成長を願って仕事上のミスを叱責する場合があるのも確かで、非常に線引きが難しいと感じています。人事部に寄せられる問い合わせへの対応でも、当事者それぞれにヒアリングすると言い分に大きな違いがあり、パワハラと断定できるものか判断がつかない場合もあります。また実態調査では、自分がパワハラを受けている、周りで行われているという認識があるにも関わらず「相談しない」というケースが一番多いという結果が出ています。人事部が掴んでいる実態とCSR推進室の実態調査や研修後アンケートの結果にギャップがあり、このギャップが当事者双方の感じ方の違いによるものなのか、私たちが一歩踏み込んで未然に防ぐべきかどうかの判断は、非常に繊細で悩ましいというのが実感です。

――今後の取組を進める上で何が重要になるのでしょう?

グレーゾーンで曖昧な状況だからこそ、啓蒙も含めた教育を充実させながら事実関係を多角的に確認して実態を把握できる体制をつくっていく必要があると認識しています。研修などで力を入れて説明しているのは「時代や世代で総括りするのではなく、個々一人ひとり異なる感覚を持っていることを十分に理解する」ということです。機械的にこうしておけば大丈夫、この通りにやればうまくいく、というものではなく、一人ひとりを見つめる意識を持ってほしいと強調しています。そのような点からも我々は、無関心社員が増えることを一番恐れており、各人が関心を持ち合うことが大切だと考えています。

結局、行き着くところはコミュニケーションではないでしょうか。コミュニケーションの問題はセクハラやパワハラに限らず、新入社員の定着率の問題やメンタルヘルスなどにも派生します。当社は合併を経て企業規模が拡大しましたが、家族的な社風が特長だとよく言われます。上下関係はあるけれども闊達に意見交換ができる。これは社員同士の距離が近すぎるが故にハラスメントと捉えられる可能性もあるので注意が必要ですが、会社の財産でもある社風を部署間の連携や社員同士のコミュニケーションなどのいい方向に活用できればと思っています。当社の社是「至誠と創造」は当社の“あるべき姿”を表していますが、その社是を全従業員で共有し実践していきたいと考えています。

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