【第38回】
企業価値向上の一環としてハラスメント対策に取組む― リンテック株式会社
人事部長 尾藤明彦 氏
サステナビリティ推進室長 星優 氏
粘着素材メーカーとして国内外で事業を展開するリンテック。以前から職場のハラスメント対策に積極的に取り組んでおり、2013年に「あかるい職場応援団」でも事例として取材させていただきました。あれから10年が経過し、2020年にパワーハラスメント対策が法制化された現在、リンテックの取組はどのようになっているのでしょうか。
取材していただいた10年前は、弊社としてもハラスメントについての様々な取組を少しずつ始めていた時期でした。人事部と、当時のCSR推進室とが連携しながら、ハラスメントを含むコンプライアンス遵守のための取組を行っていましたが、基本的には今でもそれを継続し、拡大していることになります。ひとつ大きな変化と言えるのが、社内体制の変化でしょうか。2021年に経営層を中心とする「サステナビリティ委員会」が立ち上がるとともに、CSR推進室をサステナビリティ推進室に改称しました。CSRやコンプライアンスなどといった多種多様な個別の課題に対して「サステナビリティ」という大きな経営課題の一環として取り組むことになりました。「サステナビリティ委員会」およびその下部委員会・分科会は、事業部などから独立した、全社横断的な組織となっています。ハラスメント対策についても継続的かつ積極的に取り組んできましたので、2020年の法制化について特別な準備は不要でした。
2006年から発行している小冊子『リンテックりんりかわら版』も、今では13号を数えるまでになりました。社員から募集する川柳を引き続き掲載しています。以前は「法令を守ろう」的な内容のものが多かったのですが、最近ではストレートに「ハラスメントを止めましょう」というメッセージではなく、部下に対して、あるいは仲間に対してこういう言い方をしたらいいのではないか、というようなコミュニケーションの気遣いについての川柳が増えました。
2019年に初めて管理者層だけではなく一般社員向けにハラスメント研修を行い、「こういった行為がハラスメントに該当する」ということを伝えました。研修を行うと必ず相談が来ます。会社としてはハラスメントというと「加害者」と言われる人に対してどう対処すればよいか、という観点ももちろん重要ですが、中には「なんでもかんでもハラスメント」という捉え方をする社員がいるのも事実です。それを踏まえて「こういう風に行き過ぎるとハラスメントになりますよ」という指導する側への注意と同時に、指導される側にも上司から指導されたことが、イコールハラスメントになるのではない、ということを理解してもらうためにも、研修は必要だと思っています。
他に10年前と変わったところといえば、様々な資料や研修ツールの充実が挙げられます。ハラスメントに関する学習資料や自己チェック表などで社員一人ひとりが空き時間を利用して自分なりに学習や評価ができたり、各職場単位でグループ学習ができたりするような教材をイントラネットでダウンロードできるようにしています。ハラスメントに特化しているわけではなく、他のコンプライアンスに関わることも同様に資料を作成していて、かなり充実してきています。
以前は「CSR推進室がなにかやっているね」であるとか「研修があるから受講する」という反応も多かったのですが、今はSDGsや環境への意識などが課題として浸透してきました。ハラスメントについても、私たち会社側が浸透させてきたことに加えて、社会環境の変化によっても、社員の意識が変わってきて、ハラスメントへの注意が向いてきていると感じます。研修後のアンケートなどでも「ハラスメントは意識をしなければいけない」とか「いい勉強になった」など、前向きな回答をしてくれる社員も増え、ハラスメントへの意識が浸透していることを感じます。
今の学生さんは非常に熱心に情報収集されますので、就職活動に当たっては弊社のサステナビリティレポートに掲載されているような、年休や育児休業の取得率といったデータをよくご覧になっています。昔のようにとにかく仕事、仕事というのではなく、自分のライフプランに適合した会社に長く勤めたいと思っているといえます。一方で矛盾するようですが、近年では転職も普通になってきています。仕事や会社に求めることが多様化し、十人十色になっていますので、「こうすれば長く働いてもらえる」という決まったやり方があるわけではありません。こうした取組が必ずしも定着率に結びつくわけではないですが、そこにこだわりすぎることなく、「自分の会社が好きだ」と思ってもらえるような、風通しのよい環境をつくることが、長く働ける会社づくりに役立つと考えています。それがハラスメントのない職場づくりにつながっていくものと思っています。