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厚生労働省

「社内でハラスメント発生! 人事担当の方」【第26回】「利用者からのハラスメントが課題」 ―在宅介護を中心とした介護支援事業を展開するP社

【第26回】
利用者からのハラスメントが課題 ―在宅介護を中心とした介護支援事業を展開するP社

取組のポイント 所在地

栃木県

  1. 全員が同じ従業員だという意識
  2. 親会社と連携した取り組み
  3. マネージャーや社長がいつでも直接話しを聞く体制
業種

社会福祉事業

従業員数

約250人

人手不足が問題と言われる介護事業。働きやすい職場環境を確保することは、事業運営の中で非常に重要なテーマとなっています。そうした中、従業員にとって働きやすい職場環境作りを目指してハラスメント対策に取り組んでいるP社の社長と人事担当の方にお話しを伺いました。

会社設立当初から取り組み

会社を設立した当初から、親会社の取組に合わせてハラスメント対策を行っています。グループ会社共通の企業倫理綱領としてコンプライアンスの基本方針が明確にされていて、行動規範の一つとしてセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント等の禁止を規定しています。その内容は「コンプライアンスハンドブック」としてまとめられていて、従業員全員に配布しています。

従業員全員が一体感を持って仕事をすることが必要

従業員の多くは女性で、いわゆる非正規雇用の人が多くを占めています。子育てなどでフルタイムの仕事が難しい方が多いので、働きやすい時間数や時間帯を考慮して勤務形態を決めています。また、介護業界は経験より資格がものを言うところがあり、正規と非正規、看護職と介護職、正看と準看など、ともすると差別感を生じてしまう可能性があります。
社長としては、従業員皆が協力し合って、一体感を持って仕事ができるようでなければ、よい介護はできないと思っています。資格はあくまでも仕事をする上での手段ですので、様々な資格の人もみな「同じ従業員」としてひとくくりで考えるようにし、その観点で従業員の指導や組織の運営を行っています。

コンプライアンスハンドブック

相談体制や研修は親会社と連携

各事業所には、いくつかの班があり、班長が置かれています。また、事業所ごとにマネージャーがいます。そのマネージャーが各種相談の一次窓口となっていて、そこで解決しない事案は本社の人事に上がってきます。もちろん本社の人事担当マネージャーに現場から直接相談することもできます。
さらに、親会社には「スキップアップ窓口」という相談窓口が設置されていて、メールや電話で相談できます。親会社では、事案によって、役員や人事・総務担当マネージャー、弁護士、社会保険労務士などが対応する仕組みができています。
また、毎月、マネージャー会議を開催していますが、必ず人事労務に関するテーマを取り上げていて、ハラスメントについても触れています。また、最低年に1回は親会社の人事部門の担当者が来て、スキップアップ窓口の活用も含めてコンプライアンス研修を実施し、各マネージャーはその内容を職場に持ち帰って伝達することになっています。
新人に対しては、入社時の研修でマネージャーが「コンプライアンスハンドブック」を配布し、コンプライアンス遵守について説明するとともに、ハラスメントの行為は就業規則で懲戒処分の対象となることをしっかり説明しています。また、何かあればマネージャーや本社の人事担当マネージャーにどんなことでも相談するようにと伝えています。新規採用者が10人程度まとまると、社長が直接話をする新人研修を実施しています。大体3か月に1回くらいの頻度になります。目的は定着率を上げるためですが、職業人としての心構えや介護に対する取組姿勢などを話しています。
さらに、正社員は社長と直接面談する機会が設けられているので、何か問題があれば相談できるようになっています。パートの従業員は現場のマネージャーが面談をし、内容によっては二次的に社長が直接話を聞くこともあります。こうした機会に何でも相談できるという雰囲気が、抑制効果を出しているのかもしれません。

課題は利用者からのハラスメント

ふつう、ハラスメント対策は組織内での事案を問題にしていると思いますが、当社では、利用者からハラスメントを受ける事例がほとんどです。マネージャー会議でも利用者からのハラスメント事例も含めて報告があり、大きな問題にならないように対処しています。
介護事業は介護保険に基づいて行っているサービスなので、保険の範囲内でお手伝いをするのが基本ですが、利用者やその家族から「いわゆるお手伝いさん」と間違えているのではないかと思われるような要求を受けることがよくあります。また従業員の7割が女性ですので、男性の利用者から手を握られたりするようなこともあります。

課題は利用者からのハラスメント

みなさんのお役に立ちたいという優しい気持ちでこの仕事に就く人が多いので、要求に一生懸命に応えようとし、多少のことは我慢してしまいがちです。しかし、ボランティアでやっているわけではなく、保険事業ですから、利用者全員に同様のサービスを提供しなければなりません。ですので、従業員に、ボランティアではないということをしっかり理解してもらい、利用者に対してきちんと対応できるように教育しています。

事例をお聞きして・・・

資格制度のある職場では、ハラスメントの問題が起きやすいと言われますが、従業員の一体感を醸成することで、職場の雰囲気を改善し、社内での問題はほとんどないとのことでした。離職率も介護業界では20%程度と言われる中、5%を切っているということが働きやすい職場であることを証明しています。
介護の仕事に就いた心優しい人たちが、ハラスメントで嫌な思いをされることがあってはならない、と感じたインタビューでした。

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