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厚生労働省

「社内でハラスメント発生! 人事担当の方」【第36回】しっかりした指導のために、ハラスメントへの理解が必要―書籍の製本・梱包・発送を主たる業務とするI社

【第36回】
しっかりした指導のために、ハラスメントへの理解が必要―書籍の製本・梱包・発送を主たる業務とするI社

取組のポイント 所在地

東京都

  1. 管理職向けのセミナーを開催
  2. 管理職へのアンケート実施
  3. 社労士資格を持つ社員をリーダーとするハラスメント相談窓口の設置
業種

製本梱包請負業

従業員数

約60人

書籍の製本・梱包・発送を主たる業務とするI社。少しのミスが大きな事故に繋がりかねない職場環境の中で、ハラスメントにならない、適切なコミュニケーション・指導のあり方を考える上で、ハラスメントへの理解を深める必要があると、担当者は話してくれました。

安全を守りながら、適切なコミュニケーションが必要

弊社の業務内容としては、①書籍・雑誌・カタログなどの製本、②雑誌・冊子・チラシなどのフィルムラッピング、③書籍、雑誌などの保管管理と梱包発送、④記念品・ノベルティなどの保管管理と梱包発送、また書籍のセット作業、が主なものとなります。製本、梱包、発送までを一貫して行うことが特徴です。製本部門、ラッピング部門、梱包・発送部門の3部門で、常時雇用する従業員は約60名、その他に派遣社員、アルバイトもおり、常に80〜100人が働いています。

職場の大部分が工場、あるいは作業場で、多くの機械が稼働しており、場所によっては、機械の稼働音が大きく鳴り響き、会話の声が聞き取りにくい場所もあります。また、製本・梱包された書籍などが高く積み上がっている場所もあります。そのような場所では、一瞬のミスが大きな事故に直結する可能性があり、安全確保のために大きな声や、多少強い口調で話すという場面が多々あります。また、物流の現場は、確実に、そしてより早く品物をお届けするのが重要なため、常に改善また迅速な提案が求められます。そのため、時には軋轢が生じることもあり、それがハラスメントに繋がる可能性もあります。それを防ぐためにも、普段からのコミュニケーションが重要となってくると考えています。

ハラスメント防止のための取組

弊社では、ハラスメント防止のために主に以下の取組を実施しています。

①就業規則の改訂
2021年(令和3年)12月に就業規則を改訂し、ハラスメント防止規定を整備しました。当該規定も含む就業規則全体の改定内容について、全社員を対象に告知および研修を行いました。

②管理者向けセミナーの開催
ハラスメント防止の啓発ビデオ視聴を主な内容としています。既存の啓発動画を利用していますが、取り上げるテーマ・内容については、後述のハラスメント相談窓口のメンバーを中心に話し合い、その時必要と思われるものを選定しています。例えば2022年(令和4年)は「適切な指導の仕方」をテーマとした動画を取り上げ、10月に7会場で開催、常勤役員・管理職あわせて26名が受講しました。工場業務を止めることがないように、いくつかのグループに分け、複数回開催するようにしています。

③管理職へのアンケート実施
セミナー開催後に、管理職へのアンケートを実施しています。セミナーを通じて気づいたこと、学んだことを書いてもらうことにより、各人の気づきへの導きを図る目的があります。回答の中には「部下であっても一個人として丁寧に対応していく必要があるということを感じた」、「教育も慎重にやらなければいけない。しかし部下に対する正当な教育、これは絶対にやらなくてはいけない、そのことを再確認した」というような意見がありました。このように、アンケートについては会社側が状況を把握するというよりも、アンケートへの記載を通じて管理職が自らハラスメントに対する意識を高め、対策の必要性に気づく機会としての意味合いが強く、そこに実施の意義があると感じています。

④ハラスメント相談窓口の設置
社会保険労務士の資格を持っている社員をリーダーとし、総務部次長も含む2〜3名による相談体制を構築しています。現時点(2023年3月時点)で具体的なハラスメント被害の相談が寄せられたことはありませんが、「職場の雰囲気が少しギクシャクしている」などといった指摘・相談が来ることがあります。その場合にはリーダーが当該の職場に立ち寄り、雰囲気を掴むとともに、ハラスメントにつながらないようコミュニケーションを取ったりもします。リーダーは「普段からお互いの顔が見えている」中小企業のメリットを活かし、絶えずアンテナを張って社内の雰囲気を掴み、ときには指摘・注意もしながら、ハラスメント防止に努めています。

正しい理解が、適切なコミュニケーションにつながる

これら①〜④の取り組みを通じ、ハラスメントに対する「正しい理解」を深めていくこと、これが最も大切なことだと感じます。年代や職場環境によっても、ハラスメントに対する意識の違いがあり、発信側と受け取り側との意識の違いがハラスメントにつながる可能性があることを、まず認識してもらうことが重要です。しかし同時に、大きな事故に繋がりかねないミスを防ぐために、大きな声を出す、叱責する、そうしたことをどう理解し、対応していくべきか。大きな声や強い言い方を肯定するわけではありませんが、職場の安全を確保しながらどのような対応をすべきなのか、今後の大きな課題です。過敏になるあまり、話せなくなる、指導できなくなる、ということではなく、ハラスメントをきちんと理解し「普通に」対応する。そういう社風を作っていきたいと思っています。

事例をお聞きして・・・

事故防止、適切な業務遂行とハラスメント防止とを両立させなくてはならない職場環境における工夫が伝わってきました。まずハラスメントに対する認識を深めること、世代や立場が変われば、受け止め方にも違いが生じることを、職場全体で共有することが大切です。そのうえで、どのように伝えればいいのか、これまでのいい部分も残しながら考えていくことで、よりよい職場のコミュニケーションができてくるのだと思います。

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