【第33回】
会社の方針として徹底する ―各種機械を製造するA社
取組のポイント | 所在地 |
大阪府 |
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業種 |
金属製品製造業 |
従業員数 |
約650人 |
長い歴史のある機械製造企業であるA社。製造現場では昔から伝統的に荒い言葉が行き交う状況もあったとのことです。パワーハラスメントが社会的な問題になるようになり、裁判案件も見られるようになったことで、社内での取組みを始めたという総務人事部の課長さんにお話しを伺いました。
会社の大方針が企業倫理を守ること
以前から会社の姿勢として、コンプライアンスや企業倫理の遵守を重視していて、セクシュアルハラスメントに関する取組みも、法律の規定に基づき、早くから取り組んでいました。ただ、パワーハラスメントに関しては、取組みが遅れていました。規定も定めていなかった時期に、パワーハラスメントの事案が発生し、それをきっかけにパワーハラスメントの取組みを進めることになりました。守るべき企業倫理の一つとして、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントは許さないという方針を明確にしました。
社員ハンドブックと市販の冊子でコンプライアンスを徹底
もともと企業倫理規程はあったのですが、ハラスメントの防止やコンプライアンス関連の事項もまとめた形で「社員ハンドブック」を作成し、全社員に配布しました。この冒頭に「企業倫理規程」として、職場の良好な人間関係を築くことや従業員の人格やプライバシーの尊重、ハラスメント防止規程などを遵守してより良い職場環境を保つことなどを記載しています。その上で、コンプライアンス規定やセクハラ防止規程、パワハラ防止規程など、具体的な規程類を策定しました。特にパワーハラスメントは、年代による意識の差も大きく、ハラスメントか否かの境目がわかりにくいので、厚生労働省が公表した「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を参考に、自社としての規定にまとめました。
この社員ハンドブックを教材として、新入社員研修や昇格時の研修、中途採用時の研修の際に、必ずコンプライアンス教育を徹底していて、その中にハラスメントの防止も含めています。厚生労働省のサイトから研修で使用可能な動画など色々な資料がダウンロードできるので、活用しようと思っています。
また、コンプライアンスに関してイラストやケーススタディでわかりやすく解説した市販の冊子も購入し、全社員に配布しました。内容はパワーハラスメントだけでなく、残業や職場環境、取引先とのトラブル対応など、多岐にわたっていますが、職場ごとに朝礼の際に勉強したり、唱和したりすることで社員への浸透を図っています。
社内外の相談窓口にEAPのカウンセリングをプラス
社内の相談窓口は総務人事部が担当しています。また、社外の相談窓口は顧問弁護士にお願いしています。窓口の設置は人事通達で社内に伝達したほか、各職場の掲示板や社内のWebサイトにも掲載しています。
ハラスメントに関する相談も時折ありますが、本社の総務人事部の部長、課長が、問題の起きた部署の総務の管理職と共同で、当事者や関係者からヒアリングを行い、それを受けて担当役員が対策を決定しています。上司にしてみれば以前は普通に言っていたことがパワーハラスメントに該当するなど、戸惑うことも多いようです。
ハラスメントの相談窓口という意味ではありませんが、数年前からEAP(従業員支援プログラム(Employee Assistant Programの略))の会社と契約して、従業員からのメンタル面での相談を受け付けています。カウンセラーが本社と工場のそれぞれに毎月1回訪問し、3時間の相談時間を設けています。工場では結構利用されていて、全体では毎月10件程度の相談があります。相談内容は、職場環境、人間関係、家庭の問題など様々です。
また、20名程度の希望者を募って、メンタルヘルスとはどういうものかとか、ラインケアやセルフケアとは何かというような話を、カウンセラーにしてもらったりもしています。
総務人事に直接申告できる制度
ハラスメントの実態を把握するためのアンケート調査などはしたことはないですが、当社には「自己申告制度」というものがあり、毎年10月に実施しています。これは、人事異動の希望や上司には直接言えないこと、会社に相談したいことなどを書くようになっていて、封筒に入れて投函することで、上司を通さずに直接、本社の総務人事部に届くようになっています。例えば、人間関係で問題があるというような申告があると、総務人事部長が出かけて行って面談をし、対応策を講じています。
このような制度やEAPのカウンセリングを通して、社員が相談しやすい体制を作ることで、大きな問題が防げているのではないかと思います。
事例をお聞きして・・・
伝統ある製造現場の風土では、多少のきつい言葉も当たり前のように使われてきて、その中で育ってきた世代と若い世代の間で、言葉に対する感性がかなり異なってきていることを実感するお話でした。
ハラスメントを受けることで、貴重な人材が能力を発揮できない状況に陥ってしまうことは、会社にとって大きな損失です。それを防ぐために、コンプライアンスやハラスメント防止の重要性について、機会を捉えて研修に織り込み社員に浸透させ、また、相談窓口ばかりでなく、EAPや自己申告制度で社員の声を受け止める仕組みを作って対応されていました。
「企業倫理を守る」という会社の方針が明確であるからこそ、取組みが活かされているということがわかりました。