【第31回】
問題が起きる前に行動する ―食品の製造から販売までを手掛けるA社
取組のポイント | 所在地 |
宮城県 |
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業種 |
食品製造・販売業 |
従業員数 |
約320人 |
県内はもとより、東北地方に多くの店舗を展開。その多くは直営店として運営するA社。女性社員が多い一方、工場は男性中心に運営されている中で、職場環境の改善という視点でハラスメント対策に取り組んでいるという総務部長さんにお話しを伺いました。
風邪をひいてから薬を飲むのでは遅い。
ハラスメント対策には少なくとも10年以上前から取り組んでいます。当社では先代社長の時代から、社会的に「悪」とされている概念は会社から取り除きたいという思いが強く、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントの予防対策についても、いずれ法規制がされるのであれば、社内で取組みの体制を確立し、従業員にやってはいけないことを周知することが大切という姿勢で取り組んできました。風邪をひいてから風邪薬を飲むのではなく、風邪を予防するためにうがいを励行する方が良いと考え、問題が起きる前に行動するという姿勢で職場環境の改善に取り組んでいます。
「何がハラスメントになるのか」を全従業員に徹底
一昨年、外部の講師を呼んで、全社員を対象にセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントに関する講習を行いました。ハラスメントは、行為者となる人はそのようなつもりではなくても、受ける側がどう感じるかによって決まる部分があり、グレーゾーンも多くて判断に迷います。ですので、どのような行為がハラスメントになるのか、ということを全員が理解している方が良いと思い、ハラスメントの基本概念を中心に勉強しました。
本社の事務室内や工場の掲示板、休憩室にはポスターを掲示していますが、これもかなりの抑止効果があると思っています。
また毎月、様々な会議の場で経営層が報道されたパワハラの事例などを話題に取り上げて注意喚起をしたり、社長から年に一度の経営計画発表の場において、良好な人間関係を作り、ハラスメントを防止していく方針について話をしています。こうした活動をしていても、忙しいとつい忘れがちになります。当社は繁閑の差が大きいので、忙しい時期に入る前のタイミングで、パワハラという言葉を取り上げて注意喚起をしています。
さらに本年4月から2年間の計画で、パートを含めた全従業員を対象として様々なメニューを取り込んだ研修を実施しています。一テーマ2時間の枠で、その一つにハラスメント防止に関する講座を設けています。拠点が多いので、一つのテーマを複数回開催して、参加しやすいようにしています。
規定に基づいて対応体制を整備
パワーハラスメントの禁止事項は就業規則にも規定していますが、それとは別に「セクシュアルハラスメント及びパワーハラスメント防止規定」を定めて、従業員に周知しています。ハラスメント行為は懲罰の対象として、場合によっては懲罰委員会を設置できるようになっています。
万が一、事案が発生したときの対応をフロー図で示し、誰が判断しても間違いが無いようにしています。
ハラスメント等の相談窓口としては、本社総務部と労働組合があります。従業員は何か問題があれば、どちらに相談しても良いことになっています。事案によっては男性が対応したほうが良いもの、女性の方が良いものがあるので、総務部では男女各2名の体制としています。また、毎月1回労使協議会を開催していて、問題があればそこで取り上げることにしていますが、今のところ事案は発生していません。
すべての拠点に出向いて全従業員と面談
従業員アンケートのようなものは実施していませんが、昨年から総務部長と課長がすべての拠点に出かけて、全従業員一人ひとりと面談をしています。その際に職場で問題があれば把握することができます。工場と店舗を合わせて拠点は40か所以上ありますし、1回訪問しても全従業員と話をすることができるわけではありません。店舗では昼の時間帯は手薄になりがちだし、お客様が混む時間帯をさけると、1日3時間くらいしか面談に使える時間がないので、同じ拠点に何度も足を運ぶことになり、まだ一巡できていません。大変ですが、続けていきたいと思っています。
コミュニケーションが基本
工場では男性の従業員が多いことから、以前は結構乱暴な言葉使いが飛び交っていて、「バカ野郎!」というようなこともよくありましたが、最近ではだいぶトーンダウンしているように感じます。
また、当社では技能検定を奨励しているのですが、従業員同士で勉強会を行うなど、コミュニケーションも積極的に図られているように感じています。さらに、昔からビッグシスター制度というものがあって、新入社員に対して指導役の先輩社員をつけ、業務を教えると同時にプライベートな相談にも乗り、面倒を見ています。こうした関係がしっかりしていてよいコミュニケーションが取れていることもあり、ハラスメントなども起きにくい環境になっているのではないかと思います。
事例をお聞きして・・・
何よりも予防対策に重点を置いて活動している姿勢が、風邪薬の例えからも伝わってきました。何がパワハラになるのかを全員が理解をし、また日頃からコミュニケーションを取りやすい環境を整備することで、実際の事案発生を防いでいる様子が良くわかりました。
忙しいとついつい忘れてしまうので、忙しくなるタイミングを見計らって注意喚起をするということも、効果的な取組みであると感じました。