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「社内でハラスメント発生! 人事担当の方」【第2回】 「企業理念と結びついたハラスメント対策」 ― ソニー銀行株式会社

【第2回】
企業理念と結びついたハラスメント対策 ― ソニー銀行株式会社

執行役員 人事総務部 部長 山城宏一郎氏

ソニー銀行の企業理念に最初にあるのは『フェアである』です。ソニー銀行は、フェアの基準をお客さまが判断するに十分な情報提供することをはじめとした「フェアであること」を目指しています。これはIT技術を最大限に使って高度な金融サービスを実現する、ソニーグループの銀行らしい斬新な理念です。さらに企業理念の中で目を引くのが『自由豁達で愉快な業務環境を整備する』という理念で、それは「業務を行う従業員一人ひとりが、その能力を最高度に発揮し、その可能性を追求し、自立した個人が自由豁達かつ愉快に業務を行える環境を整備する」というものです。これはソニー銀行の創業者で社長の石井茂氏がこだわって起こしたものであり、ここにはソニー創業者である井深大氏、盛田昭夫氏のスピリットが脈々と受け継がれています。この企業理念こそが、ソニー銀行のハラスメント対策のベースになっています。企業理念としっかりと結びついたハラスメント対策を実践する人事総務部、その中心メンバーの一人である山城宏一郎氏にお話をうかがいました。

自由豁達で愉快な業務環境を

――「自由豁達で愉快な業務環境を」と企業理念にありますが

ソニー銀行は、企業理念に基づく一貫した方針のひとつとして、ハラスメント対策を位置づけています。IT技術を使って金融サービスを実現する新しい企業ですから、組織には中途採用者や雇用形態の異なる労働者など、いろいろな人材が混在しています。その一人ひとりに高度な業務を担ってもらうため、『自由豁達で愉快な業務環境を整備する』という企業理念には、人が会社のすべての財産であり、働く一人ひとりの能力を最大限に活かす、という社長の強い思いが表れています。企業として行っているハラスメントへのさまざまな取組みは、こうした理念の具現化です。

執行役員 人事総務部 部長 
山城宏一郎氏

執行役員 人事総務部 部長
山城宏一郎氏

――2001年開業。従業員数350名、派遣労働者100名。企業がスタートして12年ですが、ハラスメントへの取り組みはいつからスタートしましたか?

以前からハラスメントへの取組みの必要性は認識していたのですが、実際にスタートしたのは2006年です。「ハラスメントって一体何なのでしょうか。ハラスメントの定義は会社で決めているのですか。」という匿名の問合せが従業員からあり、これが契機になりました。最初の議論で共通認識できたのが、ハラスメントは会社にとって不利益であるということ。従業員がハラスメントを受けて、最大限の能力を発揮できないとしたら、これは会社にとっての利益の損失である。それが確認できました。経営において統合的に管理すべきリスクは、市場リスク、信用リスクなどさまざまなものがありますが、当社ではハラスメントによって生じるリスクを「人的リスク」と区分し、経営におけるリスクのひとつとして定義づけています。

――ハラスメント対策はどのようなことから始めましたか?

特段ハラスメントが多いというわけではなかったのですが、多様な人材が存在する業態だけに、さまざまなハラスメントが発生してもおかしくないと考えました。職務上の上下関係に基づくハラスメントだけでなく、人間関係における「上下」が要因のハラスメントも存在するかもしれない。予防的な観点からの対策が必要ではないかと想定しました。またビジネス拡大と共に組織も拡大し、管理職の目が行き届かなくなっている懸念もありました。管理職も個人の成果を出すことにとらわれがちで、マネジメントに注力できていない傾向があります。一方、顧客対応を行う部門は、一人ひとりのスタッフに対する重圧が高くなりがちです。こうした部門については、時代に合わせて常により働きやすい環境づくりを実践していく必要があると認識しています。

ソニー銀行の「パワーハラスメントの定義」

――ソニー銀行の「パワーハラスメントの定義」を教えてください。

当社では「パワーハラスメントとは、職権などを背景にして、相手に対して有利な立場にある人がそうでない人に対して、本来業務の適正な範囲を超えて、継続的に、人格や尊厳を傷つける言動を行うことで、相手方の労働環境を悪化させる、あるいは相手方に雇用不安を与える行為のことである」と定義しています。また『自由豁達で愉快な職場』を維持するために、このような行為は、相手の人格を侵害し、職場の秩序を乱すもので厳に慎むべきものであり、当社のコンプライアンス・ハンドブックの冒頭には「ハラスメントに繋がる行為は行わないのはもちろん、他人が行うことも容認しません」と記しているだけでなく、「働く役職員一人ひとりがパワーハラスメントに対する正しい理解を深め、これらを職場から排除するとともに、その防止に努めることが大切である」としています。このハンドブックを、毎日、全員が携帯する効果は大きいと思います。

コンプライアンス・ハンドブック

コンプライアンス・ハンドブック

――コンプライアンス・ハンドブックの他にどんな対策をされていますか?

職場のヘルプライン(外部機関による相談窓口)を2007年4月に設置しました。この他に、親会社・グループ単位の相談窓口もあります。また人事総務部やコンプライアンス部に設置している社内相談窓口でも直接相談することができます。窓口をたくさんつくることで、相談がしやすくなり、「社内に知られたくない」「親会社に知ってもらいたい」といった様々なニーズにも対応できていると思います。2007年には、前年まで部長以上の役職者に実施していたパワーハラスメント対策に特化したVTR研修を、派遣労働者も含めた全従業員に実施しました。これによって、ハラスメントの定義や相談窓口の周知ができました。2010年には全従業員に外部専門会社が作成したパンフレット「しない・させない・ゆるさない」を配布し、部署内で読み合わせなども実践しています。ハラスメントの予防で大事なのは、ターゲットを絞りすぎず全員参加で対策をすること、みんなで「ハラスメントを許さない」という土壌を作っていくことだと考えています。

――「職場の健康診断」というアンケート調査を行っていますね。

今年で3回目になりますが、2010年から派遣労働者を含めた全従業員を対象に行っているセクハラ・パワハラ・メンタルヘルスに関する実態調査(外部専門会社による匿名アンケート調査「職場の健康診断」)です。このアンケートの実施後には必ず「実施報告会」を開催した上で、アンケートの結果を踏まえた内容の研修を行っています。具体的には、2010年は「上手な断り方(アサーティブコミュニケーション)」や「仲間が困っているときの支援」をテーマにしました。また2011年には、ストレスとは自分の考え方が生みだしていることもあり、「ハラスメントも捉え方や対応の仕方で防ぐことができる」という内容の研修を実施しました。このアンケートは、回答率が非常に高く2012年は回答率が95%もあり、従業員の意識の高さを実感しました。それと同時に、従業員のために私たちがしっかり対応しなくては、と身を引き締めています。

ソニー銀行の取組における今後の課題

――これからの課題はどんなところですか?

執行役員 人事総務部 部長 
山城宏一郎氏

「職場の健康診断」のアンケート調査(2012年実施)によると、41%の人がストレス度が高いと感じているという結果がでています。これは社会的な傾向かもしれませんが、当社はさまざまな経験をもった人、さまざまな就労形態のかたが共に働く環境にあるために、より一人ひとりがさまざまなストレスにおかれる状況になりやすいのではないかと考えています。一方、ハラスメントのケースに関しても、典型的なパワーハラスメントのケースとしてあげられていた、上司からのハラスメントといったわかりやすいものだけではなく、「社員⇔派遣労働者」「女性⇔女性」「女性⇔後輩男性」といった、これまで見えにくかった関係性も浮上してきています。

――派遣労働者に対するハラスメント対応は?

派遣労働者、契約社員、正社員が混在して働く部門では、業務の構造の影響もあり、とりわけパワーハラスメントが生じやすい側面があります。仕事に対する緊張感を保ちながらも、チームとしての意識を醸成することが必要と考えています。そのためには業務とは別に、個人として1対1の対等なコミュニケーションがとれるようにすることです。また、多様な就労形態に合わせてマネジメントも進化しなければなりません。派遣労働者に対するハラスメント対策は、基本的には派遣元の担当者が一番相談しやすい相手であると考えます。したがって、派遣元の担当者から、派遣先の人事担当者へきちんと情報が回ってきて、連携して対応できることが重要と考えています。

――管理職に対する啓発も重要ですね。

2011年に実施した社内アンケートの中で、幾つかの行動例を示してそれぞれ「この行動はパワーハラスメントに該当するか」と質問したところ、役職別のデータでは、役員及び契約社員、派遣労働者の層で、それぞれの行動がパワーハラスメントに該当すると回答する割合が比較的高く、正社員・部長など管理職では比較的数値が低い結果がでました。しかし、後で聞き取り調査をすると、管理職の中には自分がパワーハラスメントに該当するかもしれない行為を受けたとしても我慢すればすむ話だと捉えている者がいました。中間管理職ほど、立場上、上司と部下の間でハラスメント問題を自身のマネジメントの問題(行為者と被害者の両方の側面で問題を認識する)と捉えていることがわかりました。実際、管理職からは具体的な事例の判定を問われることがままあります。「ハラスメント防止教育」を実施して問い合わせが減少する効果があった一方、教育指導との境界を明確にできず、部下とのコミュニケーションに悩む管理職が存在します。これからは部下の指導の重要性とその方法について、教育を行なうことも必要と認識しています。

ハラスメント対策の先に見えるもの

――ハラスメント対策の先に見えるものは?

私たちが実施するハラスメント対策で一貫しているのは「働く一人ひとりがその能力を最高度に発揮し、その可能性を追求できるように業務環境を整備する」ということです。この考え方は、経営トップの意思であり、『自由豁達で愉快な職場をつくる』という企業理念と結びついています。その際、もっとも大切なのは相手を尊重する心です。お互いがWIN&WINの関係をつくり、一人ひとりが成長することが企業にとって重要です。ただ、そう簡単にいかないのがハラスメント対策です。たとえばこんな例があります。ある職場で、転職してきた従業員に上司・先輩社員が指導する際に「前の会社で、何やってきたの?」と聞くことが、ハラスメントに当たるのかどうか、という議論がありました。実際にこの言葉を言われた人に伺ったところ、不快に感じたという人もいれば、まったくそう思わなかったという人もいました。ハラスメントは人の感じ方によって異なるというところがあり、時代背景によって姿や形を変えていくものだと思っています。今はそれぞれの多様性を認めあうことこそが会社の競争力の源泉となる時代です。大事なのは自分と相手とは違う、違うことが当たり前なのだという認識を持つことではないでしょうか。もう一段上の次元で見識を備えることが「業務を行う私たち一人ひとりが、その能力を最高度に発揮し、その可能性を追求し、自立した個人が自由豁達かつ愉快に業務を行える環境を整備します」というソニー銀行の企業理念を実践する上で欠かせないのではないかと考えています。

執行役員 人事総務部 部長 
山城宏一郎氏

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