あかるい職場応援団
厚生労働省

「社内でハラスメント発生! 人事担当の方」【第13回】「風通しの良い職場づくり」の一環として ―様々な福祉事業を展開するF事業団

【第13回】
風通しの良い職場づくりの一環として ―様々な福祉事業を展開するF事業団

デリケートな問題であるパワーハラスメントに、ほかの企業はどのような対応をしているのでしょう?すでにこの問題に取り組み始めた企業にお話を伺い、これから取り組む企業や現在奮闘中の方々と共有したい経験やヒントを探ります。

取組のポイント 所在地

青森県

  1. セクシュアル・ハラスメント対策に上乗せして対応
  2. アンケートによる実態把握
  3. メンタルヘルス研修を含めて教育・研修を実施
業種

社会福祉施設

従業員数

約200人

様々な福祉事業を展開するF事業団。職場の雰囲気は施設利用者も敏感に感じとるので、経営に関わる課題ととらえ、「風通しの良い職場づくり」をスローガンとして職場環境改善に取り組んできたそうです。パワーハラスメント防止もその一環で、2年前から研修を始めたとのこと。その取組について、事務局次長と主任事務員の方に伺いました。

理事長と職員の意見交換会がきっかけ

毎年、職員を一般職員から管理職を役職ごとに三階層に分けて、階層ごとに理事長と直接意見交換をする会を開催しているのですが、その中で、一般職員から具体的な事例を挙げて、「これはパワハラにあたるのではないか?」という質問が上がりました。その時初めて、現場でそのような事例が発生していることを把握し、本格的にパワーハラスメント対策に取り組む必要性を認識しました。

幹部への注意喚起と指示、そして職員の啓発へ

上記の意見交換会の直後、各施設の施設長が集まる幹部会議で、理事長からパワーハラスメントについての注意喚起と防止の指示が行われました。また、啓発パンフレットを独自に作成し、全職員に配布しました。その後も定期的に幹部会議や各所属で開催される会議で注意喚起をしています。

パンフレット

研修は、ハラスメント対策としてセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントの両方を行っていますが、業務上、全員の参加が難しいため、管理職や相談担当者に重点を置き、現場に研修内容を持ち帰って伝達してもらうようにしています。今後は対象をもっと広げていきたいと思っています。
また、ハラスメントがメンタルヘルスに影響があることもあり、その防止やセルフケアを目的に、全職員を対象に毎年メンタルヘルス研修を実施しています。
セクシュアルハラスメントに関しては、既に関係規程を設け、相談窓口を設置しておりますので、この実績を踏まえてパワーハラスメントに関しても機能強化を図り、相談しやすい環境を整えていきたいと考えています。
ポスターについても施設利用者に配慮しながら掲示し、啓発を図っていくこととしています。

実態をアンケートで調査

最初は、トップとの意見交換会で具体的な事例を把握したわけですが、そういう場ではなかなか実情を話しにくいだろうと考え、実態把握のためにアンケート調査を実施することにしました。
アンケートを作成するうえで、できるだけ回答しやすいように、匿名にし、項目を選択する形式の質問を多くするように工夫しました。

アンケート

匿名ではあるのですが、性別や年齢、職種、雇用形態などを選択してもらう項目を入れているため、それによって個人が特定されることを危惧して、それらの項目は記入をしていない人もいました。個人が特定されることが大きなリスクであることを実感しました。
アンケートから、まだまだパワーハラスメントについての認識が薄い人もいることや、従業員数が多くないことから、法人内の相談窓口では、ちょっとしたことで特定されてしまうおそれがあるとの理由で相談しづらいのではないかということもわかりましたので、今後の取組の中で検討していきたいと考えています。
また、アンケート結果を見てその背景を考えると、根本は職員同士のコミュニケーション不足により、信頼関係が希薄になっていることが問題であると感じています。

パワハラかどうかの判断は難しい

上司の指導が業務上必要な範囲かどうか、判断が難しいケースがあります。業務によっては危険を伴うものもあり、そういう場合は、事故を防ぐために指導が厳しくなることもあります。その際に指導を受けたものがパワーハラスメントと感じてしまう可能性もあります。ですので、職場としてのパワーハラスメントの基準のようなものを作らないといけないと思っています。
また、地域によって方言が異なり、言葉遣いが強い地域もあります。普段聞きなれない表現で指導されたときに、強く叱責されたように感じてしまうこともあります。
さらに、当事者同士は全く問題になっていなくても、周囲で見聞きしている人が不快に思ったり、恐れを感じたりする場合もあって、そうしたケースの対応も、今後は考えていかなければならないと思っています。
これだけ社会で「パワーハラスメント」という言葉が広く認知されるようになってくると、言葉だけがひとり歩きして、みんなが過敏になっている面もあるのではないかと思います。上司が本当に必要な指導ができなくなるのは問題なので、今後も継続的に啓発を行う必要があると思っています。

事例をお聞きして・・・

F事業団では、実態把握にアンケートという手法を用いましたが、いくら匿名にしても、個人の特定につながる可能性のある項目があると回答しにくい、とのことでした。それだけパワーハラスメントは個人にとってデリケートな問題であることがわかります。法人内の相談窓口も、同様の理由で相談しにくいということなのかもしれません。組織の規模によって、相談対応のしかたも工夫をする必要があるようです。

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