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厚生労働省

「ハラスメント基本情報」【第53回】 「罵倒、のけ者にするなどといった行為が不法行為にあたると判断された事案」 ―美研事件

  • 精神的な攻撃型
  • 人間関係からの切り離し型

【第53回】
罵倒、のけ者にするなどといった行為が不法行為にあたると判断された事案

結論

被告会社の専務や上司らによる、罵倒、のけ者行為、降格ないし配転命令等が不法行為にあたるとして、慰謝料請求を認めた。

事案の概要

Y1社では、本来許されないはずの医療的な効能を詳細に述べるセールストークを記載したマニュアルを従業員に配布し、高額商品を販売していたため、国民生活センターに多数の苦情が寄せられていた。Y1社で勤務する正社員Xは、日頃から上記のようなセールストークに疑問を抱き上司に質問を行うなどしていたことから、不平分子とみなされていた。

そうした中でXは、Y1社らからいじめ、退職強要を受けたうえ、理由なく退職させられたために腰痛及びうつ状態に陥ったとして、慰謝料との支払いを、Y1らに請求。

判決のポイント

(1)裁判所は以下の事実があったと認定。

Xは顧客から「詐欺商法」であり解約したい旨のクレームを受け、上司であるY2の指示を仰ぎ、これに従って、顧客に対し、すぐ解約する旨を伝えた。その後、Y1社内での会議で、Y1社のA専務は上記解約について、Xを強く非難し、Xは、自分が解約させたのではないことを説明しようとしてもA専務は聞かず、また、Xについて「営業成績が悪く、解約が多いのに、サプリメントアドバイザーを名乗っているとみんな笑っている」などと罵倒した。

上記①の後、Xは社内で常時監視されているような状態に置かれ、新人をXに近づけさせない、挨拶しても返さないなど、Xをのけ者にするようないじめが行われた。

Xの職務内容はカウンセラーであったところ、Y1社から、テレフォンアポインターの職への異動を命令された。テレフォンアポインターの多くはパート又はアルバイトであり、Xもそのように理解していたため、Xはこの命令を正社員からの降格と理解し、拒否した。するとA専務からXに電話があり、大声で「あなたがいると会社がつぶれてしまう。言うことを聞けなければ自宅待機だ」と強く言われ、その後、Y2が、Xに対し、A専務の指示により全ての私物を持って会社から退去するように命じた。Xは私物をもって退去する際に重い荷物のため激しい腰痛となったほか、うつ状態に陥った。

Xが腰痛で動くことができず、自宅にいたところ、Y1社の統括部長が、電話及び自宅訪問をして、出社できないのであれば、退職届を出すように求めた。

(2)上記(1)の事実からすると、A専務、Y2らが、Xに対し、その人格を否定するような罵倒やいじめを行ったものと認められる。また、Y1は、Xをテレフォンアポインターに正社員として配置換えしただけであるのか、契約解約の件で理由なく降格したのか、必ずしも明らかでないが、たとえ配置換えの趣旨であっても、原告にテレフォンアポインターが正社員であることを説明していないことからすれば、原告が退職させるよう仕向けるための降格と捉えることは無理からぬものがあり、このことも、原告に精神的苦痛を与えたものといえる。

このように、Y1らは、上記不法行為により、原告に対し、うつ状態等の傷害を与えたというべきである。

コメント

企業の営業方法に、疑問を呈した社員に対する、報復的な嫌がらせがなされたと解される事案であり、このような対応を企業がとることは、本件のように損害賠償責任を負う場合がある。

本件は、会社の営業方法に疑問を呈していた社員に対し、契約解約を機に、罵倒や、のけ者にするようないじめなどがなされた事案である。企業としては自らの営業方法に疑問を呈する社員に対しては、まずは冷静に当該社員の理解を得るよう試みるか、場合によっては自らの営業方法を再検討すべきであり、本件のような罵倒、のけ者にするなどといった対応は、従業員のモラールに悪影響を生じさせるだけでなく、損害賠償責任をも生じさせるものであることに留意すべきである。

 

著者プロフィール

荻谷 聡史(おぎや さとし)
安西法律事務所 弁護士
2008年 弁護士登録