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厚生労働省

「ハラスメント基本情報」【第36回】 「本来予定されていない業務への就労を命じた行為が不法行為にあたると判断された事案」 ― 平安閣事件

  • 過小な要求型

【第36回】
本来予定されていない業務への就労を命じた行為が不法行為にあたると判断された事案

結論

本件行為は不法行為にあたり,慰謝料請求を認める。

事案の概要

X1とX2は,結婚式場を営む企業Yで,10年又は7年弱勤務した後,1年契約のパート労働契約を締結し,従業員X1は衣裳,従業員X2は包装業務に従事していたところ,同契約を1回更新した後に,雇止めされた。そこで従業員Xらは,地位保全の仮処分を申請したところ,認容され,従業員XらとYは,再度パート労働契約(昭和59年6月21日~昭和60年5月20日)を締結することを内容とした和解が成立するに至った。

その後,Yは,職場復帰した従業員Xらに対し,従前に従事していた衣装,包装の仕事ではなく,門の開閉,草取り,ガラス拭き,床磨き等の業務に従事させた。その結果,従業員Xらは,腕や背中を痛めて通院加療し,労災保険給付を受けるほか,昭和59年7月初旬から欠勤を余儀なくされた。従業員Xらはその後就労が可能になり原職復帰を求めたが,Yはこれを認めなかった。そこで従業員Xらは雇用契約関係の存在確認,賃金支払い及び慰謝料支払いを求め,訴訟を提起した。

判決のポイント

二審は,従業員XらとYとの雇用契約関係が存在することを確認し,賃金支払請求を認めたほか,Yが従業員Xらに対し,門の開閉などの業務への従事を指示した点について以下の①~⑤のとおり事実認定した上で慰謝料請求を認め,最高裁もかかる判断を指示した。

従業員XらとY間で和解時に取り交わされた労働契約書によると、従業員Xらの従事すべき業務は、従業員X1につき衣装並びに雑務、従業員X2につき包装並びに雑務とされており、その文言上従来従事してきた衣装、包装と全く関連性のない雑務を含むものとは解することが困難であること、前示Yから従業員Xらに対する和解の申し入れの書面にも、従来の仕事とは全く異なった仕事であることを窺わせるような文言はなく、和解に際しても特段Y側からその従業員Xらの職務の内容について説明がなかったこと、

従業員Xらに開閉させた門は、従来日中は開けっ放しにされていたものであり、これにYの従業員を配置し、車の出入等に当たり、その都度開閉する必要性は全くなかったこと、

床磨き、ガラス拭き等は、その部署の従業員が必要に応じこれをしていたものであって、従業員Xら以外にはこれに専ら従事させられた者はなく、殊更従業員Xらにのみ右のような雑務をさせねばならない合理的な理由は全く存せず、専ら従業員Xらに対する見せしめのために右のような雑務をさせたものとしか解しようがないこと、従業員Xらの抗議に対しても、Y側では取り合わず、和解後に就労を再開した後に,従業員Xらに対し衣装、包装の仕事を命じたことはなかったこと、

従業員Xらは、門の開閉などの職務を命じられたことにより、その仕事自体からはもちろん他の従業員の手前も非常な屈辱感を味わわされたこと、また、これらの職務に従事させられた結果、従業員X1においてはその右腕を痛め、通院加療し、従業員X2においては背中を痛め三週間の通院加療をしたこと、なお、従業員Xらは右障害につき労災保険から保険給付を受けたこと

従業員Xらは、前記障害のため欠勤を余儀なくされたが、その後,就労が可能となり、原職に復帰させることを求め、前記和解による雇用契約の期間満了に際しその更新を請求し、更に、内容証明郵便で就労申し入れをしているが、Yは、欠勤届を同封するから、直ちにこれを捻出するよう通知したのみで、従業員Xらの就労再開を認め、衣装、包装の仕事をさせる旨を表明したことはないこと

以上認定の事実によると、Yの従業員Xらに対する前示行為はYにおいて故意に本来予定されていない業務につき従業員Xらに対し就労を命じたものであって、このような就労命令がYの人事管理権に基づくものであるとしてもとうてい正常な人事管理権の行使とはいえず、従業員Xらの予定された業務の範囲を超えて著しく苦痛を与えたものであるから、違法に従業員Xらの権利を侵害した不法行為に該当するものであり、これによって従業員Xらは精神的苦痛を被ったということができ、これが苦痛を被った業務の内容、期間並びにその後従業員Xらに生じた傷害その他本件に現われた全ての事情を斟酌すると、これを慰謝するには従業員Xらそれぞれにつき30万円をもって相当とする。

コメント

本来予定されていない業務への就労を見せしめのために命じることは不法行為となる。

本件判決を踏まえると,業務命令を出すにあたっては以下の事項に留意すべきであり,該当しない場合には当該業務命令が無効(当該業務命令に違反しても懲戒処分を行うことはできません。)と評価されたり,不法行為にあたると評価される場合があると考えます。

 (1)労働契約において,本来予定されている業務であること
 (2)当該業務を命じる必要性があること。
 (3)当該業務命令により,労働者に与える負荷が相当なものであること。

 

著者プロフィール

荻谷 聡史(おぎや さとし)
安西法律事務所 弁護士
2008年 弁護士登録