あかるい職場応援団
厚生労働省

従業員が本来の業務に専念できる職場環境を目指して

従業員が本来の業務に専念できる職場環境を目指して

企業名:株式会社イトーヨーカ堂
業種:小売業
従業員数(2022年2月末現在):26,083人

取組のきっかけ - 増加傾向にある悪質なクレームから従業員を守り、販売業務に専念するために

昨今の消費者意識の高まり、新型コロナウイルスの感染拡大、企業に自分の考えを無理強いする消費者の増加といった社会的背景があり、「悪質クレーム」に悩まされる企業が増加したと感じています。当社が加盟する労働組合(UAゼンセン)からも、「悪質クレーム」の基準が明確でないことや接客マニュアルに労働者を保護する視点がないため、企業に対策を求める声が上がっていました。

当社ではこれまで、お客様のどのような声に対しても耳を傾けて真摯に対応することを基本としてきましたが、従来の「お客様の声に何でも答える」という対応だけでは、従業員を十分に守れず、企業としての生産性も維持できないと考えるようになり、従業員が販売業務に専念できる環境づくりを目指して対策に取り組むようになりました。

取組その① - マニュアルの整備と、マニュアルだけに頼らない現場の対応力の育成

当社では、本社のお客様相談部が中心となって取組を進めています。まず、基本的な顧客対応の方針は、UAゼンセンの「悪質クレームの定義とその対応に関するガイドライン」(※1)を参考に定めています。そして、全国およそ130店舗には、厚生労働省が公表するカスハラ対策企業マニュアル(※2)およびACAP監修の『「悪質クレーム」対応実務ハンドブック』を配布し、トラブル発生時には手元に置いて参照するよう伝えています。さらに、従業員のマニュアルも変更し、お客様の「要求内容又は要求態度が、社会通念に照らして著しく不相応」に該当する行為が2回以上みられた場合には、行為の内容や頻度、対応に要する時間といった情報を踏まえて判断できるよう、具体的な判断基準や対応方法を記載しています。こうした本社で定めた対応の方針は、実際に社内で運用しながら現場の声をもとに適宜修正し、より良い形にしています。

従業員が販売業務に専念できるようマニュアル整備などを進めていますが、お客様の声やトラブルの内容は個々に異なることから、マニュアル頼りではない現場での対応力も必要と考えています。そのため、従業員に対しては、マニュアルばかりに頼らず状況に応じた顧客対応を意識するよう伝えています。店長、統括マネジャー、売り場責任者など店舗での立場によって顧客対応で求められる内容は異なるため、階層別に研修を実施することで、現場の対応力を育てています。

アンケート

取組その② - 店舗の安全を守るための警察組織との関係づくりが、カスハラ対策に繋がる

従業員が対応に悩む「悪質クレーム」を受けた場合、店舗では統括マネジャーとお客様サービス部長が最終的な窓口となって対応しています。店舗だけでは解決できない問題については、本社お客様相談部が窓口となって対応し、さらに事件性があると判断された場合などは総務部渉外も加わって対応できるよう体制を整えています。

こうした取組を進める一方で、過度な「悪質クレーム」の対応は自社だけでは限界があると考えており、警察組織とも連携するようにしています。刑法に抵触するような行為については警察へ相談し、対象の人物が再度来店しないよう、出入禁止の通告を行うこともあります。そのために、日頃から店舗管理者は、所轄警察署と連絡を取り、問題が発生した際にはすぐに連携できる関係づくりを心掛けています。さらに、複雑な事案では対応経験が豊富な総務部渉外が加わり、店舗での事実確認、警察への相談や届出といった動きをスムーズに行えるようにしています。所轄警察署との連携などは以前から店舗の安心安全を守るために実施してきた内容ですが、昨今のカスタマーハラスメント対策においては以前にも増して重要な役割を果たしていると感じています。

取組の効果と今後の展望 - 会社ごとに適した方法で従業員を守る

会社としての対応をガイドラインに定めたことで、お客様の声を「悪質クレーム」として対応すべきか否か、どういった対応をとるべきかについて、スムーズな判断ができるようになりました。店舗、本社が連携して速やかに対応方針を決めることができ、従業員はお客様に対して「会社の方針です」と言い切り速やかに対応することができています。そのことで、現場で働く従業員にも、会社がきちんと守ってくれるという安心感が生まれていると感じています。

セブン&アイ・ホールディングスでは、グループ各社を集めた情報交換会を2カ月に1回開催しており、「悪質クレーム」に関する情報も共有しています。しかし、グループ企業内でも業種や業態によってカスタマーハラスメントの判断基準や対応方法は異なると考えており、具体的な対応方針については、グループとして統一するのではなく、各社で決めた方がよいと考えています。

今後カスタマーハラスメントが国会や行政、マスコミなどに取り上げられ、世の中にカスハラの認識が拡がれば、会社の判断基準や対応方法をより明確に示しやすくなると感じます。また、お客様自身が自らの行動を振り返ることで、カスハラ自体が少なくなっていくことを期待しています。

(※1) https://uazensen.jp/wp-content/uploads/2021/11/02a4ed3236236c3b22b6b84575e190da.pdf
UAゼンセン流通部門「悪質クレームの定義とその対応に関するガイドライン」

(※2)職場におけるハラスメントの防止のために
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001070520.pdf

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