あかるい職場応援団
厚生労働省

「ハラスメント基本情報」【第76回】「妊娠中の軽易業務への転換を契機として労働者を副主任から降格させた事業主の措置につき均等法9条3項違反の該当性が争われた事例」―広島中央保険生協(C生協病院)事件

  • 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い

【第76回】
妊娠中の軽易業務への転換を契機として労働者を副主任から降格させた事業主の措置につき均等法9条3項違反の該当性が争われた事例

結論

労働者の申出により、妊娠中に軽易業務へ転換する際に副主任を免じた(降格させた)事業主の措置は、①労働者が自由な意思に基づいて当該措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえず、また、②当該措置が均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることもできない以上、均等法9条3項が禁止する妊娠、出産、産前休業の請求、産前・産後の休業又は軽易業務への転換等を理由とした解雇その他の不利益取扱いに当たると解されるとして、上記①及び②について十分に審理検討せずに当該措置が均等法9条3項の禁止する取扱いには当たらないと判断した原判決を破棄し、原審に差戻した。

事案の概要

複数の医療施設を運営するY組合に雇用され、副主任の職位にあった理学療法士であるXは、平成20年2月、第2子を妊娠し、労基法65条3項に基づいて軽易な業務への転換を請求し、それまで担当していた訪問リハビリ業務よりも身体的負担が小さいとされていた病院リハビリ業務を希望した。これを受けてY組合はXをリハビリ科に異動させたが、Y組合は、同年3月中旬頃、異動の際に副主任を免ずる旨の辞令を発令することを失念していたことをXに説明し、Xは渋々ながらもこれを了解した。なお、その後Xは、同年4月1日付けで副主任を免ぜられるとX自身のミスのため降格されたように他の職員から見られるので、リハビリ科への異動の日である同年3月1日に遡って副主任を免じてほしい旨の希望を述べたため、Y組合は、同年4月2日、Xに対し、同年3月1日付けでリハビリ科に異動させるとともに副主任を免ずる旨の辞令を発した(Xに副主任を免じた措置を「本件措置1」という。)。
Xは平成20年9月1日から同年12月7日まで産前産後休業を、同月8日から平成21年10月11日まで育児休業を、それぞれ取得した。
Y組合は、Xから育児休業後の職場復帰に関する希望を聴取した上、平成21年10月12日、育児休業を終えて職場復帰したXをリハビリ科Fステーションに異動させたが、当時、FステーションにはXよりも理学療法士としての職歴の6年長い職員が本件措置1後間もなく副主任に任ぜられていたため、Xは再び副主任に任ぜられることなく、当該職員の下で勤務することとなった(育児休業を終えて職場復帰する際にXに副主任を免じた措置を「本件措置2」という。)。上記の希望聴取の際、職場復帰後も副主任に任ぜられないことをY組合から知らされたXは、これを不服として強く抗議した。
そして、Xは、(1)主位的請求として、本件措置1は均等法9条3項に反し、軽易業務への転換希望以前に命じていた副主任の地位を免じた本件措置2も本件措置1と併せて均等法9条3項及び育介法10条に反し、いずれも違法無効であるなどとして、副主任手当(月額9,500円)の支払、並びに債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償として、本件措置1がなされなければ得られたはずの手当等と実際の支給額との差額、慰謝料及び弁護士費用の支払等を求め、(2)予備的請求として、仮に本件措置1が有効であるとしても本件措置2は違法無効であるなどとして、本件措置2を講じた日以降の副主任手当相当額の支払並びに債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償として慰謝料及び弁護士費用の支払等を求めて、提訴した。
第一審(広島地裁)はXの請求を全て棄却したため、Xが控訴したが、原審(広島高裁)も一審判決を支持してXの控訴を棄却したため。Xが上告した。
最高裁は、原審の判断には、審理不尽の結果、法令の解釈適用を誤った違法があるとして、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻した。

判決のポイント

1.均等法9条3項の性質

均等法9条3項の規定は、法の目的(1条)及び基本的理念(2条)を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、同項に違反するものとして違法であり、無効であるというべきである。

2.均等法9条3項が禁止する取扱いの該当性の判断基準

一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であり、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置も、原則として均等法9条3項の禁止する取扱いに当たる。しかし、当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いには当たらない。
そして、上記の承諾に係る合理的な理由に関しては、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置の前後における職務内容の実質、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等を勘案し、当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から、その存否を判断すべきである。また、上記特段の事情に関しては、上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって、当該労働者の転換後の業務の性質や内容、転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して、その存否を判断すべきである。

3.Xが自由な意思に基づいて本件措置1を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか

Xは、軽易業務への転換としてのリハビリ科への異動を契機として、本件措置1により管理職である副主任から非管理職の職員に降格されたが、上記異動により患者の自宅への訪問を要しなくなったものの、上記異動の前後におけるリハビリ業務自体の負担の異同は明らかではない上、リハビリ科の主任又は副主任の管理職としての職務内容の実質が判然としないこと等からすれば、副主任を免ぜられたこと自体によってXにおける業務上の負担の軽減が図られたか否か及びその内容や程度は明らかではなく、Xが軽易業務への転換及び本件措置1により受けた有利な影響の内容や程度が明らかにされているということはできない。
他方、本件措置1により、Xは、その職位が勤続10年を経て就任した管理職である副主任から非管理職の職員に変更されるという処遇上の不利な影響を受けるとともに、管理職手当の支給を受けられなくなるなどの給与等に係る不利な影響も受けている。
さらにXは、リハビリ科への異動に際して副主任を免ずる旨を伝えられた際に、育児休業からの職場復帰時に副主任に復帰することの可否等についてY組合から説明を受けた形跡は記録上うかがわれず、本件措置2により、育児休業を終えて職場復帰した後も、本件措置1後間もなく副主任に昇進した他の職員の下で、副主任に復帰することができずに非管理職の職員としての勤務を余儀なくされ続けている。このような一連の経緯に鑑みると、本件措置1による降格は、軽易業務への転換期間中の一時的な措置ではなく、上記期間の経過後も副主任への復帰を予定していない措置としてされたものとみるのが相当であるといわざるを得ない。

Xが軽易業務への転換及び本件措置1により受けた有利な影響の内容や程度は明らかではない一方で、Xが本件措置1により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置1による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず、Xの意向に反するものであったというべきである。それにもかかわらず、育児休業終了後の副主任への復帰の可否等についてXがY組合から説明を受けた形跡はなく、Xは、Y組合から本件措置1による影響につき不十分な内容の説明を受けただけで、育児休業終了後の副主任への復帰の可否等につき事前に認識を得る機会を得られないまま、本件措置1の時点では副主任を免ぜられることを渋々ながら受け入れたにとどまるものであるから、Xにおいて、本件措置1による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たものとはいえず、その自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできない。

4.Y組合において、本件措置1につき、降格することなく軽易業務に転換させることに業務上の必要性から支障がある場合であって、均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するといえるか

Xの異動先であるリハビリ科においてその業務につき取りまとめを行うものとされる主任又は副主任の管理職としての職務内容の実質及び同科の組織や業務態勢等は判然とせず、仮にXが自らの理学療法士としての知識及び経験を踏まえて同科の主任とともにこれを補佐する副主任としてその業務につき取りまとめを行うものとされたとした場合にY組合の業務運営に支障が生ずるのか否か及びその程度は明らかではないから、Xにつき軽易業務への転換に伴い副主任を免ずる措置を執ったことについて、Y組合における業務上の必要性の有無及びその内容や程度が十分に明らかにされているということはできず、かつ、軽易業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障があったか否か等も明らかではなく、本件措置1によりXにおける業務上の負担の軽減が図られたか否か等も明らかではない。
他方、Xが本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず、Xの意向に反するものであったというべきであるから、本件措置1については、Y組合における業務上の必要性の内容や程度、Xにおける業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎付ける事情の有無などの点が明らかにされない限り、均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできない。

コメント

妊娠中の労働者の軽易業務への転換に際して降格させる場合は、慎重な対応が必要。

本事案は、副主任の立場にあった労働者が、妊娠中に労基法65条3項に基づく軽易業務への転換に際し、副主任を免ぜられたこと(本件措置1)が、均等法9条3項が禁止する「不利益な取扱い」に該当するか否かが争われた事案です。
一審判決(広島地判平24.2.23)は、本件措置1について、Xが副主任免除の辞令が発せられるまでに、渋々であるにせよこれに同意していたこと等の事情も挙げて、「Y組合において、Xの妊娠に伴う軽易な業務への転換請求を契機に、これに配慮しつつ、Xの同意を得た上で、事業主であるY組合の業務遂行・管理運営上、人事配置上の必要性に基づいてその裁量権の範囲内で行ったものと認められ、Xの妊娠に伴う軽易な業務への転換請求のみをもって、その裁量権を逸脱して、均等法や均等法告示(注:平成18年厚生労働省告示614号)にいう不利益な取扱いをしたものとまでは認め難い」として、本件措置1は均等法9条3項に違反しないとしました。
また、原審判決(広島高判平24.7.19)も、本件措置1は、副主任という管理職に区分される職位を免ずるものであるが、「管理職たる職位の任免は、管理職の配置という経営判断を要する事項であるから、人事権の行使として、使用者の広範な裁量に委ねられている」とし、本件措置1は、Xの妊娠に伴う他の軽易な業務への転換の請求を契機になされたものであるが、Y組合は、Xが「訪問リハビリ業務から、他の軽易な業務である病院リハビリ業務への転換を希望したことから、その希望通り、病院リハビリ業務を行う」科に異動させたのであって、Xに「副主任を免じたのは、リハビリテーション科にはIが主任としていて、副主任を置く必要がなかったから」であり、Xもこのことを同意していたものと評価できるとして、本件措置1は均等法9条3項に違反せず、人事権の濫用にもあたらない、として一審判決を支持しました。
これに対して、最高裁は、①労働者が自由な意思に基づいて本件措置1を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合、または②降格することなく軽易業務に転換させることに業務上の必要性から支障がある場合であって、本件措置1が均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在する場合、のいずれかに該当しない限り、本件措置1が労基法65条3項に基づく労働者の申出による軽易業務への転換に伴うものであっても、均等法9条3項が禁止する不利益取扱いに該当し、同項に違反し無効であるとの判断を示した上で、本件措置1については、上記①及び②のどちらも認められない、としました。特に、上記①について、最高裁は、本件措置1を伴う異動によって、患者の自宅への訪問が不要となったこと以外には、Xが受けた有利な影響の内容や程度が明らかになっていない一方で、Xは本件措置1によって管理職の地位と手当等を喪失するという重大な不利益を受け、かつ育児休業からの復帰時の副主任への復帰の可否等について事前に認識できないまま、本件措置1の時点では副主任を免ぜられることを渋々ながら受け入れただけであって、このような状況でのXの本件措置1についての承諾について、Xの自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由は客観的に存在しない、としました。
一審及び原審では、当該労働者が育児休業を終えて職場復帰した際にも副主任を免じたこと(本件措置2)が育介法10条等に反するかどうかも争われていますが、本件措置2は予備的請求に関するものですので、主位的請求が認められない場合に検討することになるところ、最高裁は、主位的請求にかかる本件措置1につき原判決を破棄し原審に差戻したため、最高裁は本件措置2については判断していません。
なお、本件の差戻審判決(広島高判平成27.11.17)では、本件措置1につき違法無効であるとともに不法行為として損害賠償責任を負わせるべきであるとして、副主任手当の不支給分並びに不法行為に基づく損害賠償として、本件措置1がなされなければ得られたはずの手当等と実際の支給額との差額、慰謝料100万円及び弁護士費用の支払がY組合に命じられました。

労基法65条3項に基づく妊娠中の労働者の申出による軽易業務への転換にあたり、軽易業務の内容によっては当該労働者を降格せざるを得ない、といった事態は十分起こり得ます。そして、当該労働者を降格させる場合、実務上、事業主は、当該労働者の同意を得て降格を行うことが多いと思われますが、その場合、降格についての労働者の形式的な同意を得ただけでは足りず、労働者の自由な意思に基づいて降格について同意したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しなければ、労働者の降格に対する同意は無効となり得ます。そのため、事業主が、降格につき当該労働者の同意を得ようとする場合には、事業主は当該労働者に対して、降格の前後における職務の実質的な内容、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等(これには、当該降格が軽易作業転換期間中にとどまるものなのか、あるいは産前・産後休業や育児休業からの復帰後にも続く可能性があるのか、についても含まれるでしょう。)をきちんと説明し、当該労働者から質問があれば適切に回答する等して、当該労働者が降格によって受ける職務上及び労働条件上の有利な影響及び不利益な影響を十分に説明し、当該労働者以外の労働者であっても合理的な意思決定ができる者であれば誰しもが同意するような理由が客観的に存在している状況にあることが必要です。
もし降格につき労働者の同意が得られない場合は、均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するかどうかを検討することになりますが、「特段の事情」が存在すると言い得るためには、業務上の必要性(例えば、経営状況(業績悪化等)、労働者本人の能力不足、業績不良、態度不良等)から軽易業務に転換させる際に降格せざるを得ない状況であり、かつ、業務上の必要性が降格による影響を上回ることが必要となります。

なお、この最高裁判決を踏まえて、平成27年1月、妊娠・出産、育児休業等を理由とする不利益取扱いに関する解釈通達が改正されました(平成27年1月23日雇児発0123第1号)。

(令和7年7月執筆)

 

著者プロフィール

今津 幸子(いまづ ゆきこ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士
1996年 弁護士登録