- 言葉によるセクハラ
【第75回】
同僚の警察官による性的な言動や性差別的な価値観に基づく言動につき違法性が肯定された事案
警視セクハラ損害賠償事件
東京地裁 令3.10.19判決(労働経済判例速報2539号9頁)
東京高裁 令5.9.7(労働経済判例速報2539号3頁)
結論
警察官Xが同僚の警察官Yから性的又は性差別的な言動によるセクハラを受けたとして、Y個人に対し損害賠償請求を求めて提訴した事案。一審ではYの発言の一部は「職務を行うについて」(国家賠償法1条1項)した行為であり、その他についても違法な行為であるとまではいえないとして請求がすべて棄却されたが、控訴審では、Yの一部の発言について、職務行為に密接に関連するものではなく、かつYの性差別的な価値観をXに押し付けるものである等としてY個人の不法行為責任を認め、慰謝料30万円及び弁護士費用3万円の損害賠償を認めた。
事案の概要
本件は、女性警察官Xが、職場の同僚である男性警察官Yから、執務室や懇親会、送別会等の場において、卑猥な言動や性差別的な言動を繰り返されるというハラスメントを受けたことにより、Xの人格権を侵害され、精神的損害を被ったと主張して、Y個人に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計額)及びこれに対する平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
判決のポイント
1.判決で認められたYの言動
歓迎会二次会での行為につき、Yが複数回にわたりズボンを意図的にずり落とし、ステテコを露出させた行為が認められた(本件露出行為。なお、Yがパンツを脱ぐ等の行為までは認められなかった。)。
執務室での発言につき、Yが 「(自分の)ちんちん小さいねん」、(ベビーシッターの話題に関連して)「おっぱい飲んでねんねしてはいらんのや」といった発言や風俗店に関する性的発言をしたこと(本件執務室等発言1)や、Xの執務態度について「ちょっと可愛くせないかんよ。」「優しくせないかんよ。」「あんまりキャンキャン言わん方がいい。」「女性なんだから。」などと発言したこと(本件執務室等発言2)が認められた。
Yがナイジェリア人などの外国人による犯罪情勢の説明を受けた後、Yが執務室でXに対してナイジェリア人の悪性を詳しく伝えようとして、「ナイジェリア人は、日本の在留資格を得るため、自分はアメリカ人だと言って日本人の女性を騙して結婚する。」、「それで種付けをして子供をつくるが、女に振られた時のために、別の女も数人囲っておく。」、「ナイジェリア人は、自分でチンチンが大きいと言う。」、「そうして日本人女性を騙すとんでもない奴らである。」、「奴らは日本人女性をバカにしている。」、「それに引っかかったらあかんのや。」などと発言したことが認められた(本件発言1)。
研修後の懇親会における発言につき、Yが氷かワインを運んできたXに対し「Xちゃん可愛いところあるやんか。」「普段からそうしてや」などと発言したことが認められた(本件発言2)。
送別会での発言につき、XがYに対して「男と女はどう違うんですか。」などと尋ねてきたため、Yが「これはセクハラに当たるかもわからんけど、男はオチンチン付いとんのや。」、「チンチン付けてたら男らしさも必要や。」「女性は違うやろ。優しさちゅうのもあるやろ。」「女性はかわいいとか、やさしいとかあるやん。それぞれの特長を生かして仕事もせな。」「(Xも)かわいいとことかあるやん。」などと発言したことが認められた(本件発言3)。
2.公務員個人に対する請求の可否
Yの上記言動のうち、本件発言1は、職務行為と関連すると認められ、「職務を行うについて」(国家賠償法1条1項)されたものとして、公務員であるY個人に対する責任は否定された。また、本件執務室等発言2は、Yの性差別的な価値観をXに押しつける内容の発言であって、社会通念上許容される限度を超える内容であるといえるものの、執務中にXの執務態度に関してされたものであるから、職務内容と密接に関連し、職務行為に付随する行為として、「職務を行うについて」(国家賠償法1条1項)されたものといえるとして、公務員であるY個人の民事上の責任を否定した。他方で、本件露出行為、本件執務室等発言1、本件発言2及び本件発言3は職務行為と認められず、Yが公務員であってもY個人に対する民法上の損害賠償請求の対象となるとされた。
3.本件露出行為、本件執務室等発言1、本件発言2及び本件発言3の違法性
Yの本件露出行為及び本件執務室等発言1は、セクハラ行為にほかならず、Xの人格権を違法に侵害するものとして、不法行為が成立すると認定された。
本件発言2及び本件発言3は性差別的な一定の価値観をXに押し付ける内容の発言であり、また本件発言3は露骨に男性性器に言及しており、いずれも社会通念上許容される限度を超えているとして、各発言により不快感を抱いたXに対しては、Xの人格権を違法に侵害するものとして、不法行為が成立すると認定した。
4.因果関係及び損害
Yの一連の不法行為が原因でXが精神的苦痛を受け、精神疾患を発症したことが認められ、Xに対する損害賠償について、慰謝料として30万円、弁護士費用として3万円が相当と判断された。
コメント
性差別的な一定の価値観を押し付ける内容の発言についても違法なハラスメント行為に該当しうる
本判決は、同僚による性的言動のほか、性差別的な一定の価値観を押し付ける内容の発言(いわゆるジェンダーハラスメント)についても、違法性が肯定されたものです。本判決でも示唆されているように、「男らしさ」「女らしさ」といった性別に基づく固定観念を反映した言動は、ハラスメントに該当する可能性があります。なお、判決は、本件執務室等発言2についても、「被控訴人(Y)の性差別的な価値観を控訴人(X)に押しつける内容の発言であって、社会通念上許容される限度を超える内容であるといえる」と判示しており、本件発言2及び本件発言3と同様の判断をしている点は注意が必要です。
なお、本件ではハラスメントの行為者が国家公務員であったため、「職務を行うについて」された言動(本件発言1および本件執務室等発言2)については国家賠償法1条1項により行為者本人の責任が認められませんでしたが、民間企業の場合には、職務上の行為に関しても本人の責任は免責されず、行為者本人が民法709条等による責任を負うことになります。
(令和7年6月執筆)
著者プロフィール
田中 愛(たなか あい)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士
2012年 弁護士登録




