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厚生労働省

「ハラスメント基本情報」【第74回】「育児休業の終了後になされた有期労働契約への変更の合意について、自由な意思に基づいてしたものと認められるとして有効とし、またその後の雇止めについても有効とされた事案」―ジャパンビジネスラボ事件

  • 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い
  • 育児・介護休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱い

【第74回】
育児休業の終了後になされた有期労働契約への変更の合意について、自由な意思に基づいてしたものと認められるとして有効とし、またその後の雇止めについても有効とされた事案

結論

育児休業の終了後になされた、無期労働契約から有期労働契約への変更の合意について、労働者の自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとして有効とし、またその後の雇止めについても有効とされた。

事案の概要

Xは、Y社が運営する語学スクールで、正社員として無期労働契約を締結し、英語のコーチとして勤務していたところ、出産後に育児休業を取得した。Xは、育児休業の終了時点でも保育園が決まっていなかったことから、Y社が育児休業明けの従業員のために設けていた働き方のうち、契約社員制度を選択して、育児休業の終了日に契約社員として有期労働契約(期間1年、週3日・1日4時間勤務)を締結した(以下「本件合意」という。)。Xは、復帰して間もなく、保育園が決まったとして(ただし、実際は申し込んでいなかったことが控訴審で判明。)、Y社に対して正社員としての契約に変更することを求めたが、Y社はこれに応じず、その後、有期労働契約の期間満了日をもって雇止めをされた。これに対し、XがY社に対し、労働契約上の地位の確認(主位的には正社員、予備的には契約社員)及び未払賃金の支払い等を請求した事案。

※上記のほか、Xは、Y社がXを正社員に戻すことを拒んだことや本件に関連する一連の行為に関して、Y社に対して不法行為等に基づく損害賠償を請求しており、他方で、Y社の側からは、Xの請求に対して反訴を提起し、Xの記者会見によりY社の信用等が毀損されたことに関して不法行為に基づく損害賠償を請求しているが、ここではこれらのハラスメントに関連する請求以外の請求については省略する。

判決のポイント

1.本件合意の解釈とその有効性

(1)本件合意は正社員としての労働契約を解約する合意を含むか
XとY社の間の契約社員としての雇用契約書には、「期間の定めあり」に〇が付され、期間が「平成26年9月2日〜平成27年9月1日」と明記され、「雇用形態」欄には「契約社員」との記載が明示されているのであるから、XとY社との間で、「正社員」でなく「契約社員(1年更新)」が選択され、新たに「契約社員」として期間1年とする有期労働契約が締結されたものと認められる。

正社員と契約社員とでは、契約期間の有無、勤務日数、所定労働時間、賃金の構成等のいずれもが相違する上、所定労働時間に係る就業規則の適用関係が異なり、その担う業務にも相当の違いがあるから、単に一時的に労働条件の一部を変更するものとはいえない。

したがって、Xは、雇用形態として選択の対象とされていた中から正社員ではなく契約社員を選択し、Y社との間で雇用契約書を取り交わし、契約社員として期間を1年更新とする有期労働契約を締結したもの(本件合意)であるから、これにより、正社員としての労働契約を解約したものと認めるのが相当である。

(2)本件合意の有効性
Xが育児休業を取得する以前に正社員だった場合と、その後に契約社員となった場合の労働条件を単純に比較すると、賃金額や雇用の安定等の面で差があり、後者に不利益があることは否定できない。もっとも、これはXが週5日の勤務が可能であることを前提にした場合である。しかし、実際には、Xは本件合意の時点で子を預ける保育園が見付からず、週5日勤務が困難であり、週3日4時間の就労しかできなかったのであるから、子を預ける保育園が確保できる見込みがないまま、週5日勤務の正社員のコーチとして復職すれば、時間短縮措置を講じたとしても、業務に支障が生じたり、あるいは欠勤を繰り返すなどして、退職を余儀なくされるか、解雇されるおそれがあるなどの状況にあった。

Y社は、育児休業明けの従業員のために、「正社員(週5日勤務)」、「正社員(週5日の時短勤務)」、「契約社員(週4日又は3日勤務)」の中から選択することができるように就業規則等を見直し、契約社員制度を導入していた。この制度改正については、育児休業中のXに対しても個別に説明がされ、Xも、このようなY社の取組に謝意を述べていたところであって、Xには、育児休業終了までの約6か月の間、子を預ける保育園の確保や家族にサポートを相談するなどして、復職する際の自己に適合する雇用形態を十分に検討する機会が与えられていた。そして、Xは、時間短縮措置を講じても正社員として週5日勤務することが困難な状況にあったため、一時は転職や退職を考えたものの、育児休業終了の6日前になって、正社員ではなく週3日4時間勤務の契約社員として復職したい旨を伝え、育児休業終了の前日に、契約書の記載内容、契約社員としての働き方や賃金の算定方法等について説明を受け、これを確認して、契約社員として有期労働契約を締結した。

このようなY社による雇用形態の説明及び契約締結の際の説明の内容並びにその状況、Xが育児休業終了時に置かれていた状況、Xが自ら退職の意向を表明したものの一転して契約社員としての復職を求めたという経過等によれば、本件合意には、Xの自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものといえる(広島中央保健生活協同組合事件判決(最高裁一小H26.10.23判決)参照)。したがって、本件合意は、男女雇用機会均等法9条3項や育児介護休業法10条の「不利益な取扱い」には当たらず、無効であるとはいえない。

2.有期雇用契約の更新の有無

本件の契約社員制度は、育児休業明けの従業員のみを対象とするものであり、子の養育状況等によって、将来、正社員(週5日勤務)として稼働する環境が整い、本人が希望する場合には、正社員として期間の定めのない労働契約の再締結を想定しているものであるから、契約期間の満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる有期労働契約(労働契約法19条2号)に当たる。

しかし、Xは、①Y社の命令に反し、自己がした誓約にも反して、執務室における録音を繰り返した上、②職務専念義務に反し、就業時間中に、多数回にわたり、業務用のメールアドレスを使用して、私的なメールのやり取りをし、③Y社をマタハラ企業であるとの印象を与えようとして、マスコミ等の外部の関係者らに対し、あえて事実とは異なる情報を提供し、Y社の名誉、信用を毀損するおそれがある行為に及び、Y社との信頼関係を破壊する行為に終始しており、かつ反省の念を示しているものでもないから、雇用の継続を期待できない十分な事由があり、Y社による雇止めは、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当である。

3.原審と控訴審の判断の差異(有期雇用契約の更新の有無について)

原審は、Y社の主張のうち、Y社が契約更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たり得る事実は、①就労時間中にY社代表者の同意を得ず一方的に録音を開始し、退出を命じたY社代表者の指示に従わずY社代表者の後を追ったこと、②就業時間中に業務用のパソコンを用いて業務外の電子メールの送受信をしたことの2点にとどまり、上記各行為のみによっても雇止めは認められないと判断した。

これに対し、控訴審は、上記2.のとおり判示し、Y社による雇止めを有効と判断した。控訴審では、Xが使用していた業務用パソコンから発見された、Xが就業時間中に行っていた労働組合や弁護士との相談、マスコミとのやり取り等を裏付けるメールを詳細に事実認定した上で、Xの行動に対して厳しい評価をしている。例えば、録音行為については、「自己の権利を守るといいながら、結局、Y社関係者らの発言を秘密裏に録音し、そのデータをマスコミ関係者らに手渡していたのであるから、録音を正当化するような事情はない」、「執務室内における会話を録音することが証拠の保全として不可欠であるとまではいえ」ないと判示し、外部への情報提供についても、「マスコミ関係者らに対し、Y社の対応等について客観的事実とは異なる事実を伝え、録音したデータを提供することによって、社会に対してY社が育児休業明けの労働者の権利を侵害するマタハラ企業であるとの印象を与えようと企図したものと言わざるを得ない」と判示している。

コメント

妊娠・出産・育児休業等を契機とする取扱いにあたっては、慎重な対応が必要

本判決では、育児休業の終了後に、無期雇用の正社員から有期雇用の契約社員へと雇用形態を変更した、本件合意の有効性が争点の一つとなりました。

育児休業の取得等を理由とする「不利益な取扱い」は、男女雇用機会均等法9条3項及び育児介護休業法10条によって禁止されています。この点について、本判決でも参照されている広島中央保健生活協同組合事件判決(最高裁一小H26.10.23判決)、及びこれを踏まえた厚生労働省の解釈通達によれば、妊娠・出産・育児休業等の事由を「契機として」不利益取扱いを行った場合は、例外に該当する場合を除き、原則として違法、無効になるとされています。そこで、本件合意が、上記最高裁判決が例外の1つとして示した、「自由な意思に基づいて当該措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」に該当するか否かが問題となりました。

本判決は、上記判決のポイント1(2)に記載したとおり、Y社の契約社員制度については、Y社がXに対して、育児休業終了の6か月前から複数の選択肢を示して個別に説明をしており、Xに十分な検討の機会が与えられていたことなどの事情から、本件合意には、Xの自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると判示しました。

労働者が労働条件の不利益変更を受け入れる場面ではもちろんのこと、特に、育児休業等を契機とする場面で同意を得る場合、使用者には、労働者の自由な意思に基づいてしたものであると説明できるよう、慎重な対応が求められます。本件合意の有効性に関しては、原審・控訴審ともに変わりなく、育児介護休業法・男女雇用機会均等法に違反せず、有効であると判断しました(その後、Xによる上告・上告受理申立てが退けられ、控訴審判決で確定しました。)。
育児休業等を契機とする労働者の取扱いにあたり、労働者との間でどのようなコミュニケーションを取っていくべきなのかについて、一つの参考となる事案であると思われます。

(令和7年6月執筆)

 

著者プロフィール

濱﨑 友彦(はまざき ともひこ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士
2016年弁護士登録