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厚生労働省

「ハラスメント基本情報」【第73回】「出産後1年を経過していない女性労働者に対する解雇が客観的合理的な理由を欠いており、均等法9条4項に違反し無効とした事例」―社会福祉法人緑友会事件

  • 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い

【第73回】
出産後1年を経過していない女性労働者に対する解雇が客観的合理的な理由を欠いており、均等法9条4項に違反し無効とした事例

結論

社会福祉法人が女性保育士に対して行った解雇が、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、権利の濫用に当たり、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)9条4項に違反し違法であるとして、労働契約上の地位確認を認めた上、解雇期間中の賃金の支払い、30万円の慰謝料及び18万円の損害賠償(※高裁での拡張請求)の支払いを命じた。

事案の概要

保育所等を運営する社会福祉法人Yに保育士として雇用され、出産後、産休・育休を取得していたXが、Y法人がXに対してした解雇(以下「本件解雇」という。)は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、権利の濫用に当たり、また、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁じる均等法9条4項に違反し、無効であると主張して、Y法人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに労働契約に基づく賃金及び賞与等の支払いを求め、さらに本件解雇が違法であり不法行為であると主張して本件解雇により受給することができなかった産休・育休の社会保険給付相当額の損害賠償金等の支払いを求めた事案。

判決のポイント

1.本件解雇の有効性

Xが本件保育園の施設長であるB園長の保育方針や決定に対して質問や意見を述べたほか、前年度の行事のやり方とは異なるやり方を提案することがあったことは認められるものの、質問や意見を出したことや、保育観が違うということをもって、解雇に相当するような問題行動であると評価することは困難である。また、XのB園長らに対する言動に、仮に不適切な部分があったとしても、B園長がXに対して度重なる注意、改善要求をしていたとは認められず、Xには、十分な改善の機会も与えられていなかったため、本件解雇は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることもできず、権利の濫用として、無効である。

2.均等法9条4項の趣旨

均等法9条4項は、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁止しているところ、これは、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産によるさまざまな身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される。
均等法9条4項但書きは、(使用者が)「当該解雇が前項(※均等法9条3項)に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない」と規定するが、均等法9条4項の趣旨を踏まえると、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があるものと解される。
本件解雇は、上記1のとおり、客観的合理的理由があるとは認められないから、均等法9条4項但書きの証明をしたとはいえず、均等法9条4項に違反するといえ、この点においても、本件解雇は無効である。

3.本件解雇の不法行為該当性

本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、権利の濫用に当たり無効であることに加え、均等法9条4項に違反するものであるから、違法であり、Y法人に不法行為責任が成立する。
不法行為の慰謝料額については、解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補填されれば、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝されるため、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補填が必要となる場合は少ないと考えられる。
しかし、本件においては、Xは、育児休業後の復職のために第1子の保育所入所の手続を進め、保育所入所も決まり、Y法人に復職を申し入れたにもかかわらず、客観的合理的理由がなく直前になってY法人から復職を拒否され、均等法9条4項にも違反する本件解雇をされた結果、第1子の保育所入所も取り消されるという経過をたどっている。Xはこのような過程で大きな精神的苦痛を受けたことが認められ、賃金支払等によってその精神的苦痛がおおむね慰謝されたとみることは相当でない。Y法人による違法な本件解雇により、Xに生じた上記の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は30万円と認めるのが相当である。
(※以下は高裁における拡張請求)さらに、本件解雇がなければ、Xは、第2子の育休・産休期間中に出産一時金及び育児休業給付金を受けられたといえるため、その訴訟追行のための弁護士費用18万円の損害賠償を認めるのが相当である。

コメント

妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇には注意が必要

本判決は、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇につき、均等法9条4項但書きにいう妊娠等を理由とする解雇でないことを証明したといえるためには、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことのみならず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があると判示し、結論として、本件解雇を均等法9条4項違反の点でも無効であると判断したものです。

仮に、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者につき、勤務態度の不良や職場規律違反が認められたとしても、そのような労働者の解雇を検討する場合には、解雇に合理的な理由があるか、問題となる事由の重大性等を慎重に検討する必要があります。

(令和7年6月執筆)

 

著者プロフィール

田中 愛(たなか あい)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士
2012年 弁護士登録