- 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い
- 育児・介護休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱い
【第72回】
育児休業から復職した管理職の復職後の職務配置が均等法9条3項及び育介法10条に違反するとされた事例
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件
東京高裁令5.4.27判決(労働経済判例速報2522号3頁)
(原審は東京地裁令元11.13判決(労働判例1224号72頁))
結論
クレジットカードを発行する会社の個人営業部のセールスチームのチームリーダーとして37名の部下を率いていた女性労働者が、産前産後休業及び育児休業(以下「育児休業等」という。)の取得を理由にチームリーダーの役職を解かれ、部下のいないアカウントセールス部門のマネージャーを任命される等の措置を受けたことは、妊娠、出産、産前・産後休業及び育児休業の取得等を理由とした解雇その他の不利益取扱いを禁止した均等法9条3項及び育介法10条等に違反するとして、使用者である会社に対して220万円の損害賠償の支払い等を命じた。
事案の概要
X(女性労働者)は、クレジットカードの発行を行うY社に平成20年8月に契約社員として雇用され、同22年1月から正社員となって個人顧客向けカードの営業を行うセールス部門で勤務し、同26年1月以降は、東京ベニューセールスチームのチームリーダー(バンド35=部長相当)として37名の部下を率いていた。
Xは平成27年7月30日に第2子を出産し、同月から平成28年7月まで育児休業等を取得した。この間、Y社は、平成28年1月に、組織変更により、4チームあった東京のべニューセールスチームを3チームに集約するとともに、新規会員獲得チャネルを開拓することを目的としたアカウントセールス部門を新設した。これにより、Xがリーダーであったチームは消滅した(本件措置1-1)。
Y社は、Xが育児休業等から復帰した平成28年8月1日に、Xを新設のアカウントセールス部門のアカウントマネージャー(バンド35)に配置した(本件措置1-2)。なお、Xには部下は配置されず、Xの業務の中心は電話営業であった。
Y社は、平成29年1月、組織変更により、べニューセールスチームを3チームから2チームにさらに集約するとともに、アカウントセールス部門にリファーラル・アカウントチームを新設し、そのチームリーダーとしてXではなくCを配置した(本件措置2)。
Y社は、平成29年3月、X復帰後の最初の人事評価において、Xのリーダーシップの項目の評価を最低評価の「3」とした(本件措置3)。また、Y社は育児休業等から復職したXに対し、個人営業部の共用スペースの席で執務するよう指示し、平成28年9月から同年12月7日まで、他のフロアにある部屋で執務するように指示した(本件措置4)。
Xは、本件措置1ないし4が、均等法9条3項及び育介法10条、Y社の就業規則等又は公序良俗(民法90条)に違反し人事権の濫用であって違法・無効であるとして、①主位的に、XがY社の個人営業部の東京の「べニューセールスチーム」のチームリーダー(バンド35)又はその相当職の地位にあることの確認を求め、②予備的に、XがY社の個人営業部の「アカウントマネージャー」として勤務する労働契約上の義務が存在しないことの確認を求めるとともに、③不法行為又は雇用契約上の債務不履行に基づき、損害賠償金2859万2433円及び遅延損害金の支払を求めた。
第一審(東京地裁)は、Xの確認請求のうち、①の主位的請求を却下し、その余の請求を棄却したため、Xが控訴した。
なお、Xは、控訴審において、上記①及び②の確認の訴えを取り下げたため、控訴審での審理の対象は上記③の損害賠償を求める部分に限定された。
判決のポイント
1.本件措置1について
Xの休業中にXがチームリーダーを務めていた東京べニューセールスチームを消滅させた本件措置1-1は、Y社の業務上の必要に基づくものであり、Xの妊娠、出産、育児休業等を理由とするものとは認められない。また、本件措置1-1の時点でXに対して人事上の措置が行われたものではないから、人事権の濫用に当たることはなく、本件措置1-1が公序良俗に反することもない。
他方、本件措置1-2について、Y社が、妊娠前は37人もの部下を統率するチームリーダーであったXに、復職後一人の部下もつけないでアカウントマネージャーとしての業務をさせたのは、専ら、Xに育児休業等による長期間の業務上のブランクがあったことと、出産による育児の負担という事情を考慮したものというべきであって、本件措置1-2は、Xの妊娠、出産、育児休業等を理由として行われたものである。
そして、アカウントマネージャーとしての業務は、一人の部下も付けられず、目標としての契約件数、獲得枚数、売上目標等が示されることもないまま、新規販路の開拓に関する業務を行うこととされ、Y社から与えられた700件の電話リストを使った電話営業を自ら行っていたにすぎない。そうすると、Xが復職後に就いたアカウントマネージャーは、妊娠前のチームリーダーと比較すると、その業務の内容面において質が著しく低下し、給与面でも業績連動給が大きく減少するなどの不利益があったほか、妊娠前まで実績を積み重ねてきたXのキャリア形成に配慮せず、これを損なうものであった。そして、Xがその後もチームリーダーに復帰していないこと、XとY社との間において、Xの将来のキャリア形成も踏まえた十分な話合いが行われていないこと等にも照らせば、同措置は、Xに一人の部下も付けずに新規販路の開拓に関する業務を行わせ、その後間もなく専ら電話営業に従事させたという限度において、均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」に当たるほか、Y社の人事権を濫用するものであって、公序良俗にも反する。
2.本件措置2について
Y社が平成29年1月にアカウントセールス部門とリファーラルセールスチームを併合した際、札幌のチームリーダーであるCに当該併合したチームのチームリーダーを兼務させ、Xを当該チームのチームリーダーにしなかったことは、Y社の人事権の範囲内のことであって、違法ということはできないものの、Y社が引き続きXに部下を付けることなく電話営業等を行わせたことは、均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」に当たるほか、Y社の人事権を濫用するものであって、公序良俗にも反する。
3.本件措置3について
Xがバンド30のセールスエグゼクティブ時代から平均して6人の部下を持って業績を上げ、その結果、妊娠前には37人もの部下を擁するチームを任されていたことに鑑みると、そもそもXの復職後の仕事への取組が芳しくないとか、元々リーダーシップに難点があったということはできないが、この点をおいても、リーダーシップの項目が最低評価とされたのは、復職したXに一人の部下も付けずに新規販路の開拓に関する業務を行わせ、その後間もなく専ら電話営業に従事させた結果であり、この点が均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」に当たる以上、本件措置3についても、これに当たるほか、Y社の人事権を濫用するものであって、公序良俗にも反する。
4.本件措置4について
本件措置4については、Xの妊娠、出産、育児休業等を理由とする不利益な取扱いに当たるとはいえず、人事権の濫用に当たることも、公序良俗に反することもない。
5.原審と控訴審との判断の差異
原審は、①本件措置1-1につき、Xのチームが消滅した後もXのジョブバンドはバンド35のままであり、Xが実際に復帰した際にはバンド35に相当する役職に就くことが予定されていたこと、本件措置1-2はジョブバンドの低下を伴わない措置であり、いわば役職の変更にすぎないこと、Xの復帰後の業務内容は、下位のバンドの従業員の業務と同等とはいえないこと、Xの給与の相当割合を占める基本給は減少しておらず、業績連動部分の減少は部下がいなくなったことにより直ちに生じたものとは認められないこと等、から、本件措置1-1及び本件措置1-2(以下まとめて「本件措置1」という。)は均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」には当たらず、②本件措置2は、チームリーダーの人選についてXを含む候補者の中から検討した結果、Xの復帰後の勤務態度等を考慮し、他方でCの実績を考慮して、CをチームリーダーとしXをアカウントマネージャーとして配置したのであって、Xの育児休業等の取得を理由としてなされた措置ではないから、均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」に当たるか否かを検討するまでもなく、同条項に反する措置ということはできず、③本件措置1及び2は、Y社の営業上の必要性等に照らして、Xが被った不利益が極めて大きく、育児休業等の取得に対する抑制力が過剰に強いということはできず、公序良俗に反し又は人事権の濫用として違法・無効であるとはいえないとした。また、均等法9条3項又は育介法10条等に反するY社の違法な行為の存在自体が認められないから、それらが存在することを前提として、その発生を防止すべきY社の注意義務の違反を観念することもできず、同注意義務違反を根拠とする債務不履行又は不法行為責任をY社が負うこともない、と判示した。
これに対して、控訴審は、基本給や手当等の面において直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものについては、労働者に不利な影響をもたらす処遇に当たり、これが妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後休業、育児休業の申出、育児休業等を理由として行われたものであれば、原則として均等法9条3項及び育介法10条の禁止する取扱いに当たる、とした。そして、復職後のXのジョブバンドはバンド35のままで変更がないものの、妊娠前は37人もの部下を統率するチームリーダーであったXに、復職後一人の部下も付けずに新規販路の開拓に関する業務を行わせ、その後間もなく専ら電話営業に従事させたことは、Xの業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものであり、かつこれがXの妊娠、出産、育児休業等を理由として行われたことから、均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」に当たるほか、Y社の人事権を濫用するものであって、公序良俗にも反すると判示した。
コメント
妊娠・出産・育児休業を経て復職する労働者を原職又は原職相当職以外に配置する場合は、慎重な対応が必要。 本事案は、妊娠・出産・育児休業等を経て復職した労働者の復職後の配置が、均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」に該当するか否かが争われた事案です。
原審は、Xの復職後もXのジョブバンドは低下しておらず、Xの給与の相当割合を占める基本給も減少していないこと等を重視して、Y社のXに対する措置は「不利益な取扱い」に該当しないと判示しました。これに対して、控訴審は、業務の内容面を重視し、たとえ基本給や手当等の面において直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねない配置については、「不利益な取扱い」に該当すると判示しました。そして、広島中央保健生活協同組合事件最高裁判決(最高裁一小平成26年10月23日判決)の判断枠組みを適用し、当該労働者が自由な意思に基づいて当該措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか、又は当該措置につき均等法9条3項又は育介法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在する場合を除いて、当該措置は同条項に違反し無効であるとしました。
育介法22条3項に関し、指針(子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針)第二の七(一)では、労働者の育児休業後の原職又は原職相当職への復帰は、あくまでも「原則」であり、かつ事業主はそのような配慮する努力義務があるにとどまるとされています。ですので、労働者を原職又は原職相当職へ復帰させられなくても直ちに育介法違反となるわけではありません(なお、ここでいう「原職相当職」の範囲は、通達(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について)によれば、「個々の企業又は事業所における組織の状況、業務配分、その他の雇用管理の状況によって様々であるが、一般的に、①休業後の職制上の地位が休業前より下回っていないこと、②休業前と休業後とで職務内容が異なっていないこと及び③休業前と休業後とで勤務する事業所が同一であることのいずれにも該当する場合には、「原職相当職」と評価される」としています。)。
もっとも、労働者を原職又は原職相当職へ復帰させず新たな職務に就かせる場合、復帰後の配置が「不利益な取扱い」に該当するか否かが問題となります。この点、上記指針第二、十一(三)ヘでは、「配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものであるが、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより、当該労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせること」は、「不利益な配置の変更」に該当するとしています。
本判決からは、妊娠・出産・育児休業等から復帰する労働者を原職又は原職相当職以外に配置する場合は、当該配置が経済的な不利益を伴わないだけでなく、「業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねない配置」でもないことも考慮する必要がありそうです。この「業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねない配置」か否かの判断は非常に難しいですが、少なくとも、上記指針を踏まえて、通常の人事異動のルールから十分に説明できる職務又は就業の場所の変更といえるかどうかを検討することは必要でしょう。
また、本判決でも判示しているとおり、当該労働者が自由な意思に基づいてその配置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すれば、均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」には該当しないことになります。よって、妊娠・出産・育児休業等から復帰する労働者を原職又は原職相当職以外に配置する場合は、事業主は、当該労働者に対して、当該配置により当該労働者が受ける有利な影響及び不利な影響の内容や程度を丁寧に説明し、当該労働者から質問があれば回答する等して、当該労働者から、当該配置につきその自由な意思に基づいた承諾を得るようにすべきでしょう。
(令和7年6月執筆)
著者プロフィール
今津 幸子(いまづ ゆきこ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士
1996年 弁護士登録




